人の流れが止み、そろそろドアも閉まるかというとき、佐田君がトンッと私の背中を押した。
「…っ」
よろけて私は電車の中に入ってしまう。顔を上げると、佐田君は真っ直ぐな瞳で私を見つめていた。
あまりにも真剣な瞳に、ドキッとなった。
「佐田君…」
「負けねえ…」
「え?」
「あの人には絶対負けねえ…。姫川…俺は…お前を…」
佐田君の言葉の途中にドアが閉まり、「発車します」とアナウンスが流れた。
次第に窓の景色が流れ、佐田君の姿が小さくなっていく。
それでも電車が走っていく方向を、彼の視線が逸らすことはなかった…
佐田君……。
今、なんて言おうとしたの?
電車の中で一人、熱くなった顔を手で隠した。
熱い瞳が残像となって頭から消えてくれない。
佐田君のこと…会社で一番仲がいい友達だと思ってたし、佐田君もそう思ってくれてるって思ってた。
だけど…
”姫川…俺は…お前を…”
勘違いしそうになるよ。
あのときの瞳は…まるで好きな人を見ているかのようだったから……。

