『………やだ。
今、絶対に顔、真っ赤だし……』
『俺、その顔が見たい。
てか、今までだってお前が顔を赤くしてるところくらい見たことあるし。
俺、今更お前のどんな顔を見ても引くことない、むしろ新しい顔を見せてくれた方が嬉しいよ?』
俺の言葉に数秒の遅れがあって、由香がゆっくりと顔を上げる。
月明かりとはいえ、そこまではっきりと顔を真っ赤にしているとまでは分からない。
『今更……どんな顔って……。
まるで私が変顔でもお披露目するような言い方じゃない……』
由香はそれだけ言って、そっぽを向くー…
『変顔でも、俺はいいけど?』
『だ……誰が……!』
由香の勢いのある言葉に、ついクスッと笑う。
その笑いに由香はまたそっぽを向いてしまう。
『変顔でも真っ赤な顔でもいい。
俺だけに見せてくれる顔なら俺は嬉しいから』
俺はね、
由香のことが好きだからー…
由香が見せてくれる顔は、どれも好きなんだよ?
『………そういうの……なんかズル』
俺の方へと顔を向き直し、口を開く由香。
に、顔を近寄せてその可愛い唇にそっと俺の唇を合わせた。
目を瞑り、由香に触れていると走馬灯のように流れる、今までの俺達。
ケンカもたくさんしたし、口も聞かないこともあった。
と、思えば仲直りするやすぐにケンカしたことも忘れて笑い合う俺達。
初めて由香を“一人の女”として意識した日。
由香に“好きな人がいるんだ”と、由香の初恋を教えられた日。
自分の気持ちを押し殺して相談に乗っていた時。
“振られちゃった”と言って、泣きわめく由香の背中をずっと撫でていた時。
沢山、沢山、怒ったり、泣いたり、笑ってきたな…
けどさ、どんな日もどんな時も相手が由香だったからこんなにも愛しくて、鮮やかな記憶なんだなー…

