ぼんやりしててギリギリに慌てて教室移動しているとき、持っていたプリントがうっかり飛ばされた。
 後ろからきたイケメンの先輩が、それを拾って笑顔と共に手渡してくれたらしい。
 たったそれだけのことで、俺の幼なじみはあっさり恋に落ちた。

 それ以来毎日毎日、人の話は一切聞かず、告白どころか話もできないでいるくせに、先輩がどうしたこうしたってうるせーっての。

 あいつに捕まってまた先輩の話を聞かされるのはうんざりなので、昼休みは屋上に避難した。
——はずなのに、あいつがいる。しかもなんか落ち込んだ様子で膝を抱えている。

 結局隣に座って尋ねた。

「なに落ち込んでるんだ?」
「先輩に彼女がいたの」
「ふーん。おまえの勘違いじゃね?」

 なんで励ましてんだ、俺。

「絶対違う。だってキスしてたんだもの」
「え……見たのか?」
「うん」

 そりゃ、ショックだろうな。
 かける言葉が見つからず、俺は黙り込む。
 他の奴の話を楽しそうにされるのも辛いけど、こいつのこんな泣きそうな顔見てるのはもっと辛い。

「そんなに先輩が好き? 俺じゃダメなのか?」
「え?」

 ようやく顔を上げた彼女をおもむろに抱きしめる。

「俺にしとけよ。絶対におまえを泣かせたりしないから」

 そして返事も聞かずに口をふさいだ。あとで殴られるかもしれないけど、今は、今だけでも、俺のものだと思いたい。