「い、や…。飲みたく、ないです…」

飲んだら吸血されてもいいと言うようなものだ。

頑なに拒否をする小鳥。

そんな彼女の耳元で、白魔はそっとハバネラの一節を口ずさんだ。


――恋には法も掟もない

あなたが嫌っても、私は好き

私が好いたらご用心――


次の瞬間、白魔は自ら薬を飲み、小鳥に唇を重ねた。

「っ…!!」


ソファーと白魔の間で身動きがとれない。


ゴクン――。


小鳥は口移しで薬を飲み込んでしまった。


「ケホッ、ゲホッ…!」


息を整えている間、優しく白魔に髪をすかれる。


「もう、いいかな」

「え…?」

呟きと共に、白魔は細い首筋へ噛み付いた。

「っ…!」

牙が肌に食い込む感覚。

しかし、不思議と痛みはなかった。


「んっ…やっぱり、君と僕は…相性がいいかもしれないね」

ジュルリと血を啜る白魔の息が首筋にかかる。

「美味しいよ…。君の血…」


言いながら、白魔が牙を抜いた。

こぼれ落ちる血をペロリと舐め上げ、小鳥の身体を抱き寄せる。

彼は満足そうな表情をすると、スクリーンの方を見た。


「ああ…いつの間にか舞台も嫉妬と愛憎の結末に向かっているね」

流したままだったカルメンのオペラも最終の第四幕に突入していた。

「また今度、見直そうか。君となら何度だって付き合ってあげる」


小鳥は白魔の腕に身体を預けながらドン・ホセがカルメンを殺すシーンをボンヤリと見つめた。


「フフッ…僕のプリマドンナ…」