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日の光が届かない地下深くには、闇人――吸血鬼の世界が存在する。
今日もクラヴィエ家の地下屋敷は騒がしい。
人間用のキッチンには兄弟が勢揃いしていた。
「おーい、フェオ~。味噌汁にそんなもん大量にぶち込むなよー」
鍋の中に梅干しをボンボン投入したフェオドールを呆れ顔で見るカロン。
「……ダメだったか?」
「量が鬼畜。確実に酸っぱくなるだろこれ」
味噌汁担当の二人。
その隣では白魔がサラダにする野菜を切っている真っ最中だ。
「あ、指切った。血が……まあ、いいか」
「良くないからっ!血が出たなら止血しろよな!そんまま触ったら野菜に血がつくだろ!?」
「ルカうるさい。黙って米とぎなよ」
出血した指をペロッと舐めながら白魔がルカを睨む。
昔は身長差のせいで見下ろし見下ろされの関係だった兄と弟だが、今ではすっかり同じ目線になってしまった。
あの悲しい事件から百年が経ち、身体も心も大人びてきたルカ。
火傷は首から右頬にかけてうっすらと跡を残すだけになっていた。
「やれやれ、いったい何時になったらまともな食事ができるんだろうね」
テーブルからキッチンを眺めて溜息をつく静理。
彼の横にいたオーレリアンは暇潰しに読んでいた本から顔を上げた。
「そう思うなら静理も手伝えば?」
「そうしたいのはやまやまだけど、自分の力量をわきまえているからね」
「ハッ、確かに。僕と同じで柄じゃないか。料理なんてさ」
「……と言いつつ、君が読んでいるのは料理本だね」
「レシピくらい考えてやってもいいかと思って、読んでる」