笑顔で話していた野薔薇だったが、ふと彼女の表情が変わった。

トイレの出入口を見遣り、殺気立つ。

「野薔薇さん?」

「しっ!」

なぜか黙るように指示され口を閉じる。

すると野薔薇はつい今しがたトイレに入ってきた客へ向かっていった。

「そこのあなた」

野薔薇が声をかけたのは肩から大きなスポーツバッグを下げ、帽子を目深にかぶっているジーパン姿の女性だ。

「女性の格好をしていらっしゃるけれど……男性ですわね?」


(お、男の人!?)


野薔薇の言葉に驚き、まじまじと相手を見つめる。

「その大きなスポーツバッグの中身は何ですの?まさか子供を入れていたりはしませんわよね?誘拐犯さん」

「えっ!誘拐犯!?」

小鳥が声を上げた瞬間、誘拐犯らしき人物は弾けるように外へ逃げ出した。

「逃がさなくてよ!」

野薔薇もすかさず駆け出す。

さすが軍学校の生徒なだけあって反応が素早い。

小鳥が感心しつつ後ろ姿を見送っていた時――。


「んぐっ!?」

背後から何者かに口を塞がれた。


(誰!?まさか、誘拐犯!?)


仲間がいたのだろうか。

振り返ろうとした瞬間、相手に首を絞められた。

「…っ!!」


(殺される…!?)


ひどい圧迫に意識が遠退く。


数秒後、小鳥はガクンと身体を崩し、意識を手放した。