「何さ、カロン」

「やめとけよ。親父に知られたら面倒」


声の正体はカロンだった。

口の周りについた血を袖で拭いながら白魔に話し掛けている。

「バレなきゃいいんでしょ。…それともカロン、君のペット候補に傷がつくのが嫌?」

「あんたの手の早さが嫌。さっさと小動物から離れろよ」

「…チッ」

兄弟で一番背の高いカロンに鋭い目つきで見下ろされ、白魔は悔しそうに小鳥から離れた。



(た…助かっ、た…)


「なあ、あんた大丈夫?」

カロンに問われて上を向くも、緊張の糸が切れた小鳥はそこでフッと意識を手放した。


「あ…意識飛んだ?人間て脆いよな。すぐ気絶する」


ジロジロと無遠慮に小鳥を眺めるカロンの後ろで、未だルカは固まっていた。

動かなかったのではなく、動けなかった。


――た…助けて、下さい…ルカさ…


彼女の震える声が、頭から離れない。

「小鳥……」

近づきたいけど、遠ざけたい。

求められても手を伸ばす資格など、彼にはなかった。