†††


 ジェラルドがやって来て数日。

事は突然に起こった。

「あっ!」

「おっと」

屋敷の廊下でぶつかった小鳥とフェオドール。

見通しの悪い曲がり角で正面衝突した二人は互いに驚き顔だ。

「フェオさん、すみません!」

「いや、こちらこそすまない。怪我はないか?マドモアゼル」

「はい」

大丈夫だと笑顔を見せたところで、小鳥はフェオドールが赤い薔薇の花束を抱えていることに気がついた。

「お花、平気ですか?今ので潰れちゃったりとか…」

「問題ない。それより…」

あることを危惧したフェオドールが「あまり近づかないでくれ」と言おうとした時。


――ふわり


薫った赤薔薇の芳香。

その香りは小鳥を包み込むように纏わり付く。


(な、に…?これ……頭が…)


ボーッとする。

濃厚でいて甘ったるい薔薇の香りが小鳥の脳を侵した。

そして――。


「フェオさん……好きです」


頬を赤らめて目の前のフェオドールに擦り寄る小鳥。


「………ハァ…。遅かったか」


いつもより虚ろな瞳の少女を困り顔で見つめるフェオドールだった。