EGOISTIC狂愛デジャ・ビュ



 音楽室には黒のグランドピアノが一台あった。

入るなり、白魔は蓋を開けてピアノの椅子に座る。

怒り任せに鍵盤を叩くのか、と思いきや。

深呼吸をしてから彼が奏で始めた旋律は、とても甘い愛のメロディーだった。


(優しい曲…。心が落ち着くなぁ)


立ったまま、小鳥はピアノに近づくでも離れるでもなく、微妙な距離からその滑らかな音の語りかけを聴いていた。

視界には端整な白魔の横顔。


彼がいきなりピアノを弾き出した理由はわからないが、今は黙って彼の演奏を聴くべきだ。


(そういえば白魔さん、ピアニストだよね。弾いてるところ初めて見た)


楽譜も見ずに迷いなく指を動かす。

ふと、白魔の唇が動いた。

「この曲は、ピアノの魔術師リストが作曲した“愛の夢”第三番」


盛り上がりに向かってクレッシェンドする白魔の姿がとても綺麗で、目がそらせない。

やがて高ぶる熱を抑えるように、旋律はだんだんと静かになっていった。