答えはおもむろに返ってきた。
「……君を、守りたいから」
月を見上げていたルカは、小鳥に向き直った。
「君が望むなら、どこへだって連れてってあげる。俺達から離れて、地上で暮らしたいなら……そうさせてあげるよ」
「え…?」
予想外とでも言うような小鳥の表情を見て、ルカは自嘲めいた笑みを浮かべた。
「怖いんでしょ?俺達が。ごめんね…怖いことしないって約束、俺…守れなかったな」
どこか諦めたような、今にも泣き出してしまいそうな儚い声。
「小鳥が地上で暮らしたいなら、そうしてくれて構わないから。父さん達には、俺から言っ――」
「いや!!!!」
続きを言ってほしくなくて、小鳥は声を張り上げた。
目を丸くしたルカが言葉に詰まって小鳥を見つめる。
「なんですか、それ……私、出て行きたいなんて…言ってません」
怒った表情を向けられ、ルカは戸惑った。
「えっ!?い、言ったよ!あの時!地上に帰りたいって…!」
「そりゃあ、地上に帰りたいって思いましたよ!?あんな現実、私には堪えられない!でも……」
躊躇いがちに視線を泳がせる。
「ルカさん達とお別れは…したくないんです…」
小鳥の脳裏に、ずっと住んでいたアパートが蘇る。
(あそこは…寂しい)
帰っても、誰もいない。
お帰りを言ってくれる母親も、一緒に買い物に行ってくれる家族も、居間で笑い合える相手も――誰も、いない。
独りきりの生活。
「また、独りぼっちは……嫌ぁ……」
思い出して、涙が溢れた。
知ってしまったから。
傍に誰かがいる温かさ。
それが闇人――吸血鬼だろうと、一緒にいたいと望む自分がいるから。



