上品に差し延べられた手を取って椅子から立ち上がり、紳士的なエスコートをされる。
来た時と同じように青薔薇のアーチをくぐり…。
「あれ?どこに行くんですか?」
アーチをくぐるのかと思いきや、フェオドールはアーチの脇に伸びている細い小道へ進んだ。
「ん?こっちから来たんじゃないのか?」
「いえ…私は向こうのドアから入りましたよ」
アーチの方を顎で示すと彼は納得したように溜息をこぼした。
「ああ…絵画の方か。よくドアだとわかったな」
「いきなり開いたんです。ビックリしました」
「………もしや、俺が通った時にドアをちゃんと閉めていなかったのかもしれないな」
小道を道なりに進むと、程なくして正面にドアが現れた。
「今度からは、ここから来るといい」
フェオドールがそのドアを開けると、入って来た時と似た廊下が視界に映った。
「このドアは君の部屋の鏡に繋がっている」
「え!?鏡って、あの壁にかかってる等身大の!?」
「そうだ」
唖然。
まさかあの鏡にそんな仕掛けがあったとは。
「ここから先は君の部屋に等しい。俺はここで見送ろう」
「わかりました。じゃあ、行きますね。今日は本当に、ありがとうございました。楽しかったです。おやすみなさい」
「こちらこそ、マドモアゼル」
フェオドールは名残惜しげに小鳥の髪に口づけた。
その動作は至って自然で、小鳥の頬が再び熱くなる。
「おやすみ。良い夢を…」
胸をドキドキと高鳴らせながら一人、廊下を歩く。
「フェオさん…」
教えられた通り、鏡のドアを押して部屋へ戻った小鳥は、受け取った青薔薇の魅惑的な香りをそっと楽しんだ。