夕暮れ、カラスの泣く音
暗転
明転
英彦、休憩室に一人 しばしの沈黙
一葉、部屋に入ってくる
一葉 おつかれさま
英彦 おつかれ…
英彦、あきらかに元気がない様子
一葉 ………モンストでもする?
英彦 …今は…いいかな
一葉 …そっか
英彦 ………妹さ、
一葉 …ん?
英彦 ……………ガンだった
一葉 …
英彦 いつも通り点滴打って寝ておけば治るって、俺も家族もみんな思ってたんだけど…1週間くらい前に検査したら、悪性のガンだって。手術したら治るとは聞いたんだけど、お金だってかかるし、うち貧乏だから保険なんて入ってなかったし…もうどうすればいいか分からなくて
一葉 …それ、妹ちゃん知ってるの?
英彦 言ってない、ほかの人にも。誰かに言ったら、本人にも言ってしまいそうで怖くて…でも、隠し続けるのもいい加減つらかったから
一葉 …そっか…言って英彦が楽になるならいいんだけどさ
英彦 ……
一葉 あのさ、
英彦 …?
一葉 お金、どうするの?
英彦 ……
一葉 私も少ないけど貯金だってあるし、店長に相談したら給料すこしだけでも前借させてくれるかもしれないし、命さんもなくなったお金は何とかなるっていってたし
英彦 俺が、
一葉 …
英彦 俺が、盗んだ
沈黙
一葉 …どうしてそんなことしたの
英彦 どうしようもなかったんだ、…妹のためには莫大な金がいるんだよ
一葉 …じゃあ、妹のためなら私たちを苦しめてもいいってこと…?
英彦 …仕方ないだろ…
一葉 仕方ないって!!
英彦 ずっと一緒に過ごしてきた大切な家族と、ただ金を稼ぎたくて集まったバイト仲間とどっちが大切だと思う!!?
一葉 ………
英彦 …ごめん…
一葉 ……わたしたちだって、一緒に過ごしてきたじゃん…
英彦 …
一葉 …お金は人をばらばらにするんだ、…ただの紙切れのくせに立派だよ…
英彦 …紙切れでも、今の俺には命(いのち)と同じくらい重たく感じるよ
一葉 誰にとってもそれは同じだよ!!!みんなお金は大事なの!!!夢をかなえるために、楽しいことをするために、誰かを助けるために、でも!!!!!…でも、お金で誰かの人生を壊しちゃいけないよ
英彦 ……
一葉 …ねえ、みんなに正直に言おう。言ってちゃんと謝って、どうにかしてお金も返えそう。私も手伝うから…、だからお願いだから、うそをつくのはやめよう…
英彦 …今更言っても、無理だろ…
一葉 そんな、
英彦 命さんと店長は一切口を聞いてないし、店長と諭吉さんが言い合ってる声も聞いた。もうみんなバラバラになって、…ばらばらにした原因の俺が今になってのこのこと「俺がやりました」なんて出て行ったら…それこそみんな怒るだろ
一葉 そんなこと、ないよ。だって病気を治すためだよ?…きっと分かってくれるよ
英彦 誰も彼もお前みたいに優しくないんだよ、いい加減あきらめて、俺を警察に突き出すとかしろよ
一葉 …どうしてすぐあきらめるの?どうして無理だとか仕方ないとか言って逃げようとするの?私のこと信用してくれてるから打ち明けてくれたんでしょ?どうしようって悩んでることを聞かせてくれたんでしょ?
英彦 …
一葉 みんなのことも信じてよ、ただのバイト仲間かもしれないけど、でもそれで終わりにしたくないよ…
英彦 ……
英彦、カバンを抱え休憩室から出て行こうとする
一葉 英彦!
英彦、立ち止まる
一葉 私は、…英彦のこと信じてるから
英彦、出て行く
暗転
明転
光華、命、諭吉 が休憩室にいる
一葉が入ってくる
一葉 おつかれさまでしたー
命 お疲れー
一葉 今日も一段と暑かったですね
命 そうだね~、あれ、そういえば英彦くんは?
一葉 妹ちゃんのお見舞いに行くってすぐにでてっちゃいました
命 そっか、…あ、じゃあ私表の戸締り確認してくるから、片付けといて
一葉 はーい
一葉、片づけをしている
諭吉 店長、
光華 ん?
諭吉 命さんにきちんと謝らないんですか?
光華 うん…
一葉 あの…、なにかあったんですか?
光華 はは…ちょっとね…喧嘩しちゃった
一葉 やっぱり…あの件で
光華 まあね…、私があまりにも無責任だったのがいけないんだ。…一言も口をきかない喧嘩なんて、生きてる中で今まで一度もしたことなかったからさ…どうしたらいいかわかんなくなっちゃうな
一葉 そうですか…
諭吉 でも、そういうのはちゃんと話さないとなにもはじまりませんよ?
光華 うん…
命、入ってくる、荷物をまとめてでていこうとするが光華が引き止める
光華 命!!
命 ?
光華 あ、あのさ…!
英彦、走り入ってくる
英彦 ちょっとすみません!!!!!!!
光華 英彦くん…?
英彦、かばんの中から札束を取り出して机の上におく
英彦 あの!!!金庫の中のお金なんですけど!!!お、俺が…俺が盗みました!!
光華 え、どういうこと?
英彦 (食い)妹がガンで、どうしてもお金が必要で盗んでしまいました!!!家族が大切で妹が大切でどうしても自分の欲望を抑えることができなくて!!!バイトのことなんか正直どうなってもいいとも思いました!!!!!!だけど!!!!!!!俺は今どっちも選びたいです!!!!!いつもよりもたくさん働きます、みんなが笑えるように面白いギャグを考えてきます、おいしいお茶が飲めるようにとっておきのお菓子を買ってきます!!!!!!お金も、今病院に言って返してもらいました!!!!だから、自分勝手だけどこれからも一緒にバイトさせてください!!!!!!
一葉 英彦、
英彦 本当に自分勝手だということはわかっています。…みなさんの気持ちをぐちゃぐちゃにして!!恩をあだで返したようなものです!!もういっそ警察に突き出されてもかまいません!!!!ほんとうに申し訳ありませんでした!!!!!!!煮るなり焼くなり、もう好きにしてやってください!!!!!
沈黙
光華 ふっ、…はははははは!!!!!!
一葉 …店長!?
光華 英彦くん、言ってることぐちゃぐちゃ
英彦 …す、すみません…
光華 お金、…持っていきなよ
英彦 ………え?
光華 ほら、いつもよりたくさん働くんでしょ?…ちょっとずつ返してくれればいいからさ。みんなの分の給料は私が何とかする…妹さんのことも、みんなでがんばればなんとかなるかもしれないし…、ほら手をつなぐ…なんだっけ?
諭吉 みんなで手をつないで歩けば、誰かが転びそうになったときに助けられる
光華 そう、…転んだときはどうして転んだかみんなで一緒に考えられる
諭吉 次は転ばないようにもっとかたく手をつなぐ
光華 私たちはただのコンビニの正社員とアルバイトだけど…でも一緒に仕事をする仲間でしょ?……信じて手をつないでくれるだけでいいからさ
英彦 許してくれるんですか
光華 …私もさ、迷ってたんだ。仲間を取るか自分を取るか。…正直、選べなくてどうしようもなくて、…深い水のそこに落ちたみたいなっちゃって暗くて怖かった。でも、自分も信じて仲間も信じれば…そこは暗い場所から、一気に明るい場所に変わるって気づいたんだよ。…なーんて、おばかな店長が言っても説得力ないかもしれないけどさ…。…きっかけを作ってくれたから。だから今回は無罪放免。…特別だよ、……仲間だから。
英彦 …ありがとう、ございます…!!!!
光華 よし!!!!!…みんなもそれでいいかな?
一葉 いいです!!!
諭吉 わたしも、賛成です
命 …
光華 みこと、
命 …賛成にきまってるじゃない?
光華 …!!!!!
命 決まり、…さ、じゃあみんな片づけしよう。店の掃除もまだしてないから、やることはいっぱいあるよ
一葉 はい!!(英彦に)さ、行こう
英彦 …おう!!
諭吉 わたしも手伝ってきます
光華 うん!
三人去る
光華、命が残る
光華 …
命 ……で?さっき何か話したかったんじゃないの?
光華 あ!!!あのね!!!!!私、命に謝りたくて!!
命 …
光華 自分のことばっかり考えててごめんなさい!!!!自分だけ取り残されてしまうのが怖かったの!!!!でもね、みんなのこと信じてたらちゃんとみんなが手をつないでいてくれるってわかったから!!!!だから一歩踏み出してみようと思う!!!!命も!!!!!気づかせてくれてありがとう!!!!!!
命 …
光華 だから、だからこれからも友達でいてくれますか!!
命 ……
光華 …だめ、かな?
命 ……、(笑いながら)友達じゃなくて、ずっともじゃないの?
光華 …みこと!!
命 英彦と話してる光華、かっこよかったよ
光華 みことおおおおおおおおおおお(抱きつく)
命 ちょっとちょっと!!
光華 みことはやっぱりずっともだね!!ハイパースペクタクルずっともだね!!
命 もおおおお!!前言撤回!!
暗転
感動的な音楽を頼む
明転
一葉 おつかれさまでした~
命 あ、おつかれ
英彦が入ってくる
英彦 疲れた~
光華 はっはっは
英彦 店長~人使い荒くないですか?
光華 いっぱい働いてくれるんだろ~?
命 あんたそのうち訴えられるよ?
光華 ちょっと~!!そんなにハードワークじゃないと思うんだけど!!
命 冗談冗談~
光華 もー、背筋の凍ること言わないでよ!!
諭吉 皆さん相変わらず元気ですね~
光華 元気なことはいいことだよ!!!
英彦 店長は元気すぎますけどね…
光華 そうだ!!今日は私がクッキーをつくってきました!!
一葉 店長が手作りのクッキー!?
諭吉 そんなキャラじゃないと思ってた
光華 なにげにひどい!!
諭吉 ははは、すみません
光華 諭吉ちゃんも英彦くんみたいにこき使われたい~?
諭吉 ひっひいいいそれだけは勘弁です!!!
光華 さあさあ食べてみて!!
一葉 じゃあ、頂きます…
諭吉 一葉 まずっ!!!!!
光華 ひどいいいい!!!!!!!!みことおおおおお
命 ちょっとなになに!?
光華 今日クッキー作ってきたからあ、命も食べてよお
命 わ…私はいいわ
光華 えー!!命までー!みんな冷たくない?ねえねえ英彦くんは?ねーえ!!!
英彦 えっ!?お、俺はあ…
命 さ、掃除しよ掃除しよ
諭吉 あ、私も手伝いますー!!
光華 えっ!?待ってよおおお
三人はける
英彦 (笑い)ほんと騒がしいなー
一葉 笑いすぎて顎が痛くなっちゃうよね
英彦 そのうち顎のびるんじゃねーの?
一葉 はあ!?伸びるわけ無いでしょ!!
英彦 のびるね、絶対に
一葉 もー!!!!伸びない!!
英彦 伸びる!!
一葉 伸びたら予言した英彦が責任とってよね!!
英彦 は?なんで俺がそんなことしなくちゃならないんだよ!!
一葉 いいから!!!
英彦 …はいはい
一葉 …ちゃんと信じててよかった
英彦 …なんか言った?
一葉 何にも言ってないよ?
英彦 嘘だ!なんか言っただろ
一葉 幻聴じゃない?いい病院紹介しようか?
英彦 結構です!!
光華 ひでひこくーん!!掃除手伝ってー!!!
英彦 えー!!俺もう今日は十分働きましたって!!
光華 文句言わない!
英彦 あーもー!分かりました!今行きます!!
英彦、出ていく
一葉、それを見送る
金庫を見つめて近づき触るが離れる
一葉、休憩室から出て行き 暗転、音楽がFO
