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暗転 明転

一葉、英彦、光華、諭吉が重い空気の休憩室にちりじりに座っている
命、休憩室に入ってくる

命 ダメ、店じゅうを探したけど封筒どころかお金の影すら見つからない
一葉 レジの中にはないんですか?
命 全然。昨日のうちにレジのお金も光華が全部金庫にしまっておいたから、レジも空っぽだし
一葉 そうですか…
諭吉 私たちもみんなあちこち探したんですけど…、だめですね
命 そっか…
諭吉 すみません…
命 とりあえず私と光華で本部に連絡してなんとかするから、今日は解散にするね。今日も天気悪いから、気をつけて
一葉 はい…帰ろう、英彦
英彦 おう…
諭吉 一葉、一緒に帰ってもいい?
一葉 うん、...帰ろう…...お疲れ様でした

一葉と英彦、出て行く

諭吉 大丈夫ですよね…きっとすぐ見つかりますよね?

沈黙の後、諭吉は落ち込んだ顔になり出て行く

光華 ……どうしよう……
命 どうしようって、とりあえず本部と警察に連絡するしかないでしょ
光華 っでも、こんな失敗がバレたら店長をおろされちゃうだろうし
命 私からもうまく言うよ、…どうこう言ってなんとかなるかなんて、なんないかもしれないけど。でもやってみたら何か変わるかもしれないから
光華 …......
命 大丈夫だって、私たちが悪いことしたわけじゃないんだから。まずは気持ち入れ替えよう
光華 (食い)あのさ、…ガラスだって割れてないし、金庫も壊されないで鍵があけてあった…強盗だとしても不自然じゃない?
命 ?
光華 金庫のパスワードを知ってるのはさ…私たち従業員しかいないんだよ
命 …!?まさかバイトの子達のこと疑ってるの?
光華 そんなことしたくないけどさ…。メモ書きをここに残して行ってるのは本当のことだし...
命 でも、…じゃあどうやって入ったの?玄関だって裏口だって鍵を閉めてあるんだから、どこからも入れないでしょ!?
光華 トイレの窓の鍵!
命 !!!
光華 実は今日の朝、トイレの窓が開きっぱなしになってたんだよ
命 でも、まだバイトの子だって決まったわけでは
光華 どっちにしろ私がクビになるのはきまったよ
命 しつこいなあ、だから気持ちを切り替えようって言ってるでしょ!?
光華 そんなの無理だよ!!!!!
命 っ…
光華 そりゃあ命が言ってることのほうが正しいけど!!でもせっかく店長になれて、このまま楽しく生きていけるのかなって思ってたのに!!…盗難ひとつで人生がめちゃくちゃになるんだよ!?
命 ……めちゃくちゃだなんて…まだ分かんないじゃない
光華 分かるの!!
命 …もし何かあっても...あんたの力量ならたとえ店長じゃなくても
光華 いままで努力してどんなこともやってやっと手に入れた役職なの!!それをハイハイ分かりましたって捨てろっていうの?
命 ……ねぇ
光華 これまで荒く苦い波の中にのまれて脱落していった仲間たちをたくさん見てきたのは命も同じでしょ?
命 …
光華 いくら金庫の中に入っていたか分かる…?…60万円だよ?みんなの給料と昨日の分の売り上げと、いったい無くなった分はどうやって補うの?
命 ……お金と一緒に、光華の前向きな気持ちも……全部一緒に無くなったんだね…

命、出て行こうとするが光華の声で止まる

光華 命、
命 失望した。…いつの間にそんなに自分のことばかり考える人になっちゃったの?

命、出て行く

長い沈黙
光華、机にやつあたりする

光華 …自分のことばっかり考えて何が悪いんだよ!!!こんな時にまで人の為にがんばれる心の広い人間じゃないし!!!!!そんなのなれるならとっくのとうになってるっつーの!!!!!てか私がそんなやつだったら今ここに立ってないだろ!!!ふざけんなよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

光華、我に返りすとんと椅子に座る

光華 …お前に失望されるくらいなら、店長になんてならなければよかった…!!!

暗転
明転

一葉 おはようございます…(誰もいないことに気づき途中で言葉を止める)

あきっぱなしになっている金庫を見てから悲しいため息をつき、どこかに電話をかける

一葉 ………あ、…お母さん?わたし、…うん、実はね……まだ給料入らないかも。……うん、ありがとう。ごめんね、…………うん……わかった。…お母さんも仕事がんばってね、気をつけて帰ってきて?……じゃあまたね

電話の途中で命が休憩室に入ってくるが、入り口のところで止まる。電話が終わると命はそっと声をかける。

命 一葉ちゃん
一葉 あ、おはようございます命さん!!
命 電話してた?
一葉 すみません、入りづらかったですよね…ちょっとお母さんに連絡してて
命 全然気にしてないから大丈夫だよ、今日英彦くんは?
一葉 少し遅れるみたいです、妹のお見舞いにいくって
命 そうなの?来てないからちょっと心配しちゃった
一葉 あれ?英彦電話してましたけど…店長に聞きませんでした?
命 あ、そっか…光華に連絡してたなら大丈夫かな
一葉 はい。そういえば店長は?
命 今はレジに出てるよ、諭吉もきてないからまだ一人
一葉 じゃあ、私も店のほう出てますね
命 うん

命、机の前に座り作業を始める
一葉、エプロンを着るが、見るからに元気のない命の姿を目にして心配する

一葉 あの命さん、…
命 ほら、お金も何とかするから!お客様の前では笑顔作りなよ?
一葉 …はい…

一葉、出て行こうとする瞬間に諭吉が入ってくる

一葉 あ!諭吉!おはよう
諭吉 おはよう

一葉、出て行く

諭吉 命さん、おはようございます
命 おはよう、今日は天気いいし、お昼ごろには忙しくなりそうだからよろしくね?
諭吉 はい、分かりました
命 あと、お金なんだけど…
諭吉 はい
命 やっぱり、見つからなかった
諭吉 ………そうですか……、警察には言ったんですか
命 相談しようって言ったんだけど、光華がダメだって
諭吉 !!…どうしてですか
命 ……お偉いさんにばれて、クビにされるのがいやなんだって
諭吉 ………そんな無責任な
命 私もアイツには失望したよ。…自分の利益のために動く奴だったなんて思ってなかった…
諭吉 …っ私からも店長に言います
命 待って諭吉ちゃん!!!
諭吉 ?
命 …あ…いや…話すなら…休憩の時間にしてね?
諭吉 はい…とりあえず品出ししてきます

諭吉、出ていく

命、落ち込んだ様子で座っている
時計の音FI どんどん大きくなっていく。まるで命を圧迫しているかのよう。
命が机を叩き立ち上がり、時計の音CA
時計のほうを見る命

命 ………もう昼か…

光華入ってくる

光華 お昼ごはん~、(命に気づき止まる)……命
命 ………
光華 あのさ、
命 (食い)お昼食べなよ
光華 ……うん

命、出て行く

お昼ごはんと食べようとかばんから(弁当なりパンの袋なり)をだして机におき座る
諭吉が入ってくる

諭吉 あ…すみません店長、今いいですか
光華 …どうしたの?
諭吉 どうしたじゃないですよ…、無責任すぎませんか?
光華 ………
諭吉 お金のこと、結局何にも解決していないのに、よくもそんなに暢気にお昼ご飯を食べようとか思えますよね
光華 …
諭吉 みんながどれだけ迷惑してるかわかってるんですか?口にしないだけですごく困ってるんです。…一葉はお母さんが一人で自分と弟の学費を出していて生活が厳しいから少しでも楽にしてあげたくてバイトをしてるんです。英彦君も体の弱い妹さんがよく入院するけど、そんな妹でもちゃんと楽しく遊べるようにって家族旅行のために貯金をしてるんです。命さんだって何も言わないだけであなたのことを信頼しているはずです、なのにあなたは…あなたはなんていったと思いますか。
光華 ……
諭吉 …自分がクビにされるのが嫌だから警察には言わない…?……自分勝手にもほどがありますよね。自分の首さえ切られなければ私たちの生活や夢は知らん振りですか?
光華 …
諭吉 …………何か言ってくださいよ
光華 ……
諭吉 なんですか、言葉も出したくないんですか、…
光華 …
諭吉 ああ、…それともあれですか、大学を浪人してフリーターになって2年間もだらだらした挙句の果てに親に見離されて自分の夢も分からなくなってるような出来損ないの若者の言う言葉になんて耳も貸したくないってことですか!?!?
光華 ちが、
諭吉 じゃあどうして動かないんですか!!!!!
光華 っ…
諭吉 仮にもいままで私たちをひっぱってきてくれたんですよね!!!どうして私たちのために何かしようとしてくれないんですかこんなときにかぎって!!!!!!
光華 …私だってどうにかしたいんだよ
諭吉 じゃあどうにかしようとしてくださいよ!!!!!!
光華 どうにかできないんだよ!!!!!!!!!!!!!!!!!
諭吉 どうして!!!!!!!…どうしてできないって決め付けるんですか!!!!!
光華 みんなのために何かしようと動いたら、私だけつまづいてしまいそうで怖いの!!!私は普通の生活をしたかった!!!!!私の望む生活をお金ひとつでこんなに狂わされなきゃいけないのがつらいんだよ!!!!
諭吉 だったらつまづかない方法を探しましょう!!!!
光華 …っ
諭吉 私たちみんなで手をつないで歩けば、誰かが転びそうになったときに助けられます。誰かが転べば立ち止まってどうして転んだか考えます。次は転ばないようにもっとかたく手をつなぎます…それじゃあだめですか?
光華 ………
諭吉 …それとも私たちじゃ頼りないですか?
光華 そんなこと…ないよ
諭吉 じゃあ、決まりです

光華、手を伸ばす

暗転
明転

光華 はーあ、疲れた疲れたー
命 暑かったね
光華 ほんとさねー!!さっさと帰ってお風呂はいりたいー!!!
命 よし、さっさと帰ろうっか
光華 はーい

二人、エプロンを脱いでかばんに荷物をつめたりなんだり
光華椅子に座り命に話しかける

光華 ねぇ、命
命 なに?
光華 私の夢聞いてくれる?
命 突然どうしたの
光華 いいからいいから~、いいよって言っておくれよ~
命 はぁ…いいよ?
光華 わたし、店長やってみたい!!!!
命 はあ?なに言ってんの?
光華 だって店長ってさ、なんか、みんなの憧れみたいでかっこいいじゃん!
命 相変わらずアホな発想するよね
光華 アホじゃないもん!!
命 はは、冗談だよ
光華 そうやって命はいっつもバカにして!!!
命 バカじゃなくてアホって言ってるの
光華 どっちも同じでしょ!!
命 同じってことはアホでも分かるんだね~
光華 も~!!!!!!!!!!

ぴたりと止まって見つめあう二人(?)その瞬間吹きだすようにわらって

光華 命 バッカみて~!!!!
命 小学生かよ~
光華 最初にはじめたのは命でしょ?
命 そうだけどさ~。…そっかー…店長か…
光華 みんなが楽しく笑って働ければ、お客さんも気持ちよく買い物ができると思うんだよ
命 ……
光華 みんなが仲良くて、いつも笑って、休憩時間にはテーブル囲んでおかし食べて、時々くだらないことでケンカして仲直りして、時には真剣に話し合って…そんな、やりがいがあるなって思って貰える仕事場を作りたいなって
命 ……
光華 ……なんか言ってよー!!!
命 (半笑い)いや、まじめなところもあるんだなーって
光華 ちょっと、なにそれー!!
命 ほめてるんだって。…うん、私応援するよ、店長
光華 ほんと!?
命 ほんと!!ていうか、友達の夢を応援しない理由なんてないでしょ?
光華 ううううこうかああああああ!!!!(だきつく)
命 ちょっとちょっと!!くっつかないでよ、暑いんだから!
光華 ごめんごめん(離れる)、よし、じゃあ店長になったら命のことを雇ってあげよう!!!!
命 それはちょっといいかな…
光華 えーひどい!!
命 さ、帰ろ帰ろー
光華 みことぉ~!!

荷物を持ち二人がはけていく 暗転