亜耶のバックに暴力団はいなかった。


きっと、兄弟も家族もいない。


家もどこにあるかわからない。


ただ、普通の生活を送らなければいけない理由が1つだけ存在していたから、学校へ通い、テレビ番組をチェックして日常の話題を拾っていたのだろう。


じゃぁ、亜耶は一体何者だったのか?


目の前の光景を見ていても、あたしはまだそれが理解できずにいた。


悲鳴の持ち主は亜耶だと思ったが、栞理だった。


栞理は亜耶の前で尻もちをつき恐怖で顔をゆがめている。


大きな男2人は何かをわめき散らし、逃げようとして足を絡ませ転んでしまった。


こんな場所を選んだのが間違いだったんだ。


逃げたくても、腐葉土や蔦に足を持っていかれる。


そして亜耶は……亜耶は、ただその場に立っていた。


大きく開いた亜耶の口。


まるで、ヘビが食事をする時のようにアゴが外れ、下あごが胸につくほど開ききっている。


青い瞳は真っ白に変わり、どこを見ているのかもわからない。


恐怖を感じながらもその姿は人間のものではないと、それだけは理解できていた。


そして……空いた口から嘔吐音が聞こえて来た。