目が覚めると辺りは暗やみに包まれていた。
静寂がやけに気持ち悪く感じる。
寝る前は太陽の日差しが明るく暖かかったのに…。
透はベッド脇にあるライトに手を伸ばした。
カチッという音と共にライトの周りがぼやっと明るくなる。
姿見に気怠そうな自分の姿が映る。
鏡の透は起き上がり、また話し始めた。
『お前本当に勘違いとか考え過ぎとか思ってるんじゃないだろうな?』
「なんだよ…。」
透は鏡の透と同じく起き上がり影がシンクロする。
『あれは気付いてる。お前が人殺しってな。』
「………あぁ。」
『じゃどうする?あの親子を殺すか?』
自分を守るよりも透はずっと深く、舞を愛していた。
板挟みになった自分をどうしていいのかわからない、それが今の正直な気持ちだった。
『お前…幸せになれないな。』
今までずっと攻撃的な幻覚は、初めて弱々しい声で言った。
そしてそのまま姿を消した。
透は立ち上がり携帯を探した。
すると、すぐにカウンターに置かれてるのに気付いた。
カウンターの上には鍵や携帯が綺麗に並べられて置かれていた。
舞がしてくれたのがわかる。
携帯を取ると、ぶつかったのか鍵に付けた鈴が鳴った。
こんな自分を責めているように聞こえた。
「こんな鈴で……。」
透は勢いよく鍵を手にし、鈴を引き千切ろうとした。
けれど、唯一愛してくれてた祖母がくれた物を捨てることなんて出来なかった。
そして、そのまま鍵はカウンターの上に戻された。
透は携帯を開いた。
暗やみの中に透の顔が液晶の光に照らされ浮かぶ。
メールも電話も舞から一つも入っていなかった。
時間を確かめると、もう21時を回っている。
自分が寝ていると気を効かせてくれただけかもしれないと、透は舞に電話をかけた。
何度かのコールの後、留守番電話に切り替わった。
透はメッセージ途中で電話を切った。
もう一度かけ直す。
けれど舞は出ない。
もしかしたら、舞も疲れたのか寝てしまってるのかもしれないと思った。
その日はそれ以上連絡をせず、透はもう一度ベッドに戻った。