思っていた通り雨は程なくして降り出した。
あっという間に全身が濡れていく。
あの日のように雨足はどんどん強くなり、地面に打ち付ける。
透の目にはもう色はなくなり、白黒の世界が広がっていた。
ショーウィンドウに自分の姿が映る。
ショーウィンドウの中の自分が動き出す。
『ほら、だから言っただろ。お前は幸せになれないって。』
「さっき聞いた。」
『皮肉なこともあるんだな。』
「うるさいっ!」
『自分が殺した奴の娘と結婚?!笑える話だ。』
透は歩く速度をあげた。
『なぁどうするの?このままじゃいつかはバレるぞ。』
「わかってる!わかってるよ!!」
透は顔を歪めた。
ガラスに数回拳をぶつけると、そのまま崩れ落ちた。
透は声を出して泣いた。
突然降り出した雨のせいか通る人は居ない。
流れる涙は雨が全て流してくれた。
雨はより一層強くなる。
透の頭の中は過去に戻っていた。
震える手を見つめた。
あの時の感触か蘇る。
鈍く突き刺さる感触と生温かい血の匂い。
目の前に苦痛に歪む顔の五十嵐 拓が横たわる。
何かを言おうとしてるのか、口がパクパクとしている。
『ゆ・る・さ・な・い』
五十嵐の口がそう言った。
透は頭を抱え強く目をつぶった。

なぜ気づかなかった?
所長と舞が、叔父と姪の関係だと知った時に何故疑わなかった?
そもそも所長が五十嵐と知った時点で疑っていればこんな事にはならなかった?
いや、だって所長は関西の人じゃないか!?
だから僕は…僕は舞を…。
もっと早く知りたかった。
舞をこんなに愛してしまう前に…。

「深海さんっ!!!」
舞の声が聞こえる。
頭が朦朧とする。
これは幻聴?
振り返ると傘を差して、こちらに向かって走って来る舞が見えた。
透と目があった瞬間、傘を捨て必死に走って来る。
「ま…い…?」
そこで透の意識は途切れた。