二人の交際は順調で透の世界も色で鮮やかに彩られていた。
交際を一番喜んでくれたのは、本人よりも五十嵐だった。
次の日報告をすると、よくやったと五十嵐は透の頭を撫でた。
透と舞は毎週会うようになった。
もっぱら映画ばかりのデートだったけど、二人共幸せだった。
夏はプールや海にも出かけた。
初めての舞の水着姿は透にとって刺激的だった。
付き合い始めて3ヶ月が過ぎた秋。
二人は始めてキスをした。
遠出した帰り舞を家まで送った帰りの車の中。
突然、舞が切り出した。
「深海さんにとって、私って魅力ないですか?」
思いもしていなかった質問に透はびっくりしてけれど、そんなことはないと即答した。
「じゃなんで、なにもしてくれないの?」
ここまできて質問の意味を理解できた。
「いいの?」
透は敢えて避けてきた行動だった。
手も繋ぐし、ハグもする。
けれど、その先の事はしないでいた。
考えない様にしていた。
透の言葉に舞はゆっくり頷いて瞳を閉じた。
透は舞を引き寄せキスをした。
ゆっくり離れると、恥ずかしそうに舞は透に抱きついた。
そして透の耳元で囁いた。
その言葉は透の体を震わせた。
一度も他人から、親からさえも言われた事のない言葉。
「僕も愛してる。」
透は素直にそう舞に伝える事が出来た。
二人が深い関係になるのに時間はかからなかった。
キスをした一ヶ月後、透の家に初めての来た舞は、そのまま泊まることなった。
朝目が覚め透の腕の中で寝息を立て眠る舞を見て、透は生きて来て良かったと思えた。
ゆっくりと舞を起こさない様に腕を抜いて、透はベッドから出てシャワーを浴びに行く。
脱衣所に入ると鏡に映った自分がニヤリと笑った。
『幸せそうだな?人殺しのくせに。』
透は無視をし、そのまま風呂場に入った。
目の前の鏡の自分が懲りずに話す。
透はシャワーの栓をひねった。
勢いよく水が透の体を濡らして行く。
『お前は幸せになれない。』
「わかってる!そんなこと…わかってる…。」
風呂場の壁を思いっ切り叩くと鏡の自分は消えた。
水の音が静かな浴室に響き渡る。
透は頭から水を浴びた。
リビングに戻ると、起きた舞がベッドの上に座り透に微笑んだ。
「おはよう。」
朝日に照らされた舞の姿は女神の様に美しく透は無言で見つめた。
「深海さん?」
「あっおはよう。」
「大丈夫?」
「あぁ大丈夫。あまりにも君が綺麗で…」
「やだぁ。」
舞はシーツで顔を隠した。
透はキッチンでグラスを取り水を飲んだ。
「今日はどうする?どこか行く?」
「ううん。今日はここで深海さんと二人で居たい。」
「わかった。そうしよう。」
透は舞に自分のシャツを貸した。
舞には少し大きく短めのワンピースの様になった。
その姿もたまらなく可愛かった。

その日は二人でテレビゲームをしたり、DVDを観たりして過ごした。
夕方になる頃、不意に舞が切り出した。
「あのね…深海さん。」
「ん?なに?」
キッチンで夕食を考えていた透にカウンター越しに椅子座り覗き込む様に話しかけてきた。
「あのね…今度私の家族と食事しない?」
急な申し出に透の行動はストップした。
そんな透を見て舞は慌てて言葉を続けた。
「いや、そんな大事じゃなくて、お母さんが付き合ってる人いるなら、一度連れておいでって…ご飯でもって。だから嫌ならいいの。」
そう言うと椅子から離れようとした。
「待って…嫌じゃないよ。ちょっとびっくりしただけだから…それに、そろそろ挨拶したいって思っていたし。」
「本当に!?」
舞はカウンターに身を乗り出し目を輝かせた。
「あぁ。」
「良かったぁ。」
そう言って舞は椅子に座りクルクルと回った。
「私のとこ母一人子一人なの。だからかな、お母さん心配性で。」
「えっ?そうなの?」
「うん。私が小さい頃にお父さん亡くなってるんだって。」
「病気で?」
「ううん。事故だって言ってた。」
「舞は覚えていないの?」
「うん。全然記憶にない。」
「そっか…。」
あの子も舞と同じ様に父親の居ない子供なんだと透は一人の女の子を思い出していた。
「でも、全然不幸じゃなかったから、そんな顔しないで。」
「うん。」
あの女の子もそうであって欲しいと透は心底思った。
黙ってしまった透を心配したのか、椅子から降りると透のそばまで来ると腕に手を回し顔を覗き込んだ。
「大丈夫だよ。私幸せだもん。」
「あぁ…うん。あっ今からじゃ駄目かな?」
「えっ?お母さんに会うの?」
「うん。」
「家にはいるけど…。」
「じゃ今から送るがてら挨拶するよ。」
「うん。わかった。じゃ着替える。」
そう言って舞はベッド脇に置かれた自分の服を持つと着替え始めた。
透もクローゼットから服を選び着替え始めた。