雨が強く地面を叩きつける。
雨の音しか聞こえない程の強い雨。
視界を遮る程の雨に少年は苛立ちさえ覚えた。
暦はもう春だというのに、その夜は肌に刺す寒さが手を震わせた。
明日に卒業を控えた、その少年は目的を達成する為、雨の中傘もささず歩いていた。
目深に被ったキャップ帽は意味もなく、髪を伝い雨が頬に幾度となく流れ落ちる。
叩きつける雨と寒さのせいか、まだ9時前だというのに人の姿がなかった。
少年にとっては有利な状態だった。
出来れば誰一人とて自分の姿を見られたくない。
少年は一つの家の前で足を止めた。
この家の住人が仲が良いと思わせる様なポップな色合いの表札があった。
「チッ!」
少年は表札を見て一つ舌打ちをした。
その家は普通より大きくて少し豪邸と呼ばれる程の家だった。
少年は二階に目をやり、爪噛んだ。
少年の爪はどの指もボロボロで日頃から爪を噛むのが癖だと誰が見てもわかるだろう。
「出てこいよ…。」
少年はボソッと言い背中に背負っていたリュックからソレを出した。
すぐさま雨に濡れ街灯に照らされ鈍い光を放つ。
「こうしなきゃ僕は前に進めないんだ。」
そう言って少年は手に力を入れた。
そして、ゆっくりとインターホンに指を伸ばした。