軋む木の廊下を歩く度に、鼓動が速くなっていく。
未琴の部屋が見えた。
深呼吸をして、心の準備をする。
「失礼します。未琴様、露李です」
自分から行こうとは思わなかった部屋の前に立っている。
それでも気丈でいられるのはきっと、後ろにいる六人のおかげだろう。
「お入りなさい」
未琴の声が聞こえた。
静かに襖を開け、部屋の中に入る。
未琴は後ろに立つ六人を一瞥し、言った。
「貴方たちもお入りなさい。報告があるのでしょう」
「はい」
結が頷き、それを合図に入室する。
しかし、海松だけがその場に留まった。
「私はお茶を淹れて参ります」
家の世話を兼ねているためか、その辺りの気配りが欠かせないのだ。
「いいえ。お茶は式に頼んで、海松もそこへお座りなさい」
少し戸惑ったように海松が未琴を見返す。
こんなことは初めてだ。
「貴女も結界の強化をしていたのでしょう?」
表情を変えずに淡々とされた説明に納得した海松は、改めて部屋に入った。
失礼しますと言ってから畳の上に正座する。
「…それで。今しがた、この辺りに何か気配を感じましたね。私が許してはいない者たちの」
「はい、未琴様。疾風と静、理津が護衛組、俺と文月が巡回組でした」
結が改まった口調で説明する。
「水無月たちの狙いは花霞と風花姫です」
「彼らはそれを知っているのですね。では、奴らを率いる誰かもまた存在するのでしょう」
「はい。それに…神影でも水無月たちの力とも違う力の気配がしました」
今ここで出てくるとは思わなかった。
神影の力の気配は露李でも察知することができる。
だから必然的に結が言う力は、露李が雹雷鬼を出したときの力だということになるのだ。
未琴がちらりと露李を見た。
何もかもお見通しのようだ。
「そうですか。…他に聞きたいことがあったのではないですか?」
守護者たちの顔を見て未琴が訊ねた。
「あー、そうですそうです」
やや間延びした文月の声が答える。
この緊迫した雰囲気をものともしないのは図太いのか何なのか。
「露李があの本に触れた瞬間、苦しみだしました。話によると、何か声が聞こえると。──詳細は錯乱していたので分かりませんが」
結は一言一言を絞り出すように言う。
「なるほど。分かりました、水無月については結界を強化することに努めましょう。露李と話をします、貴方たちは下がりなさい」
未琴の鋭い視線に反論することが出来なかった。
「──はい」
音を立てずに立ち上がり、襖に向かう結と文月に四人が咎めるような視線を向ける。
「結、先輩」
疾風が結を呼ぶ。
「─行くぞ」
逆らえず、四人も席を立った。


