二人の前へ来るや否や、結の背中を盾に隠れる。
「おわ、何だよ?」
「どうしたの、露李ちゃん?」
「あいつら変態なんです!」
露李が疾風たちをびしっと指差した。
その先で理津と疾風の抗争を止めようとしていた静が固まる。
「えっ僕もですか!?」
うーうーと犬のごとく唸る露李には聞こえていない。
「何で変態なの?」
事情は分かっているはずなのに敢えて尋ねる文月は鬼畜だ。
「理津は抱きついてくるし、疾風も二人して抱き心地がどうとかって!!」
「なっ…」
「そっかぁ、それは変態だねー」
そう言いながら文月は露李の鞄から滑り落ちた本を拾った。
はい、と手渡す。
「ありがとうございます──っ!?」
また、触れた瞬間だった。
頭の中に思念が渦巻いて、割れるように痛い。
「どうした!?」
結がさっとしゃがんで露李の顔を伺う。
目の焦点が合っておらず、尋常ではない苦しみようだ。
『全てを知らなければ、求めるものを得ることはできない』
『全てを見せなければ、求めることはできない』
『全てを受け入れなければ、成すことはできない』
音が聞こえない。色彩が霞む。
どういうことだ。全てを知って、見せて、受け入れる?
浮かんできた疑問も、また思いで満たされた。
『愛して、いたのに……』
狂おしいほどの甘い想いと、身を切るような切ない痛み。
自分のものではない想いなのに、どこか懐かしくて。
「うううっ…」
「露李!」
「露李ちゃん」
「姫!」
「露李先輩!」
「おい露李!」
五人の声は聞こえているのに、顔を上げることが出来なかった。
『貴女の全てを託しなさい』
その声が露李を乗っ取ろうとするように──雹雷鬼を出すときと同じ感覚に見舞われた。
今、顔を上げたら。
私の目が、金色になっているかもしれない。
声への抵抗が意味を成しているかも分からないから。
「い、や…」
そう口に出すと、意外にも唐突に──痛みと声が消えた。
「大丈夫、か?」
疾風の心配そうな瞳が露李を捉えた。
藍の瞳になぜか胸が鳴った。
「本当に?露李ちゃん顔が真っ青だよ」
「大丈夫、です」
そう答えるが、五人は心配そうな顔を崩さない。
「駄目だ。今から未琴様の所に行こう」
結が露李を支えながら立ち上がった。
「結先輩!露李先輩は」
「そっすよ先輩!未琴様は露李にっ、」
静と疾風が抗議する。
理津と文月は黙って結を見据えていた。
「分かってる。けど、俺たちでも分かんねーんだから仕方ないだろ」
結の言っていることは正しい。
正しいが故に、残酷に思えた。
露李は笑う膝を無理矢理止めて微笑んだ。
結の表情を見ていれば不本意に思っていることが十分分かったからだ。
みんながそんな風に思ってくれていることが嬉しかった。
それだけでいい。
「大丈夫だよ。…そんなこと、気にしてる場合じゃないって分かってるから。ありがとう皆」
情けない、という顔で見返してくる疾風と静。
表情に影を落とした理津。
ごめんなと呟く結。
無表情で感情を押し隠す文月。
そんな五人に、露李はまた柔らかく微笑んだ。


