「君は──」
水無月が何か言う前に、紫の火が露李を取り囲んだ。
「露李!!」
ふわっと体が軽くなるのを感じた。
温かく、逞しい腕。
碧とも透明ともつかない髪。疾風だ。
藍色の瞳が心配そうに見つめてくる。
「疾風…」
「一人にして悪かった。大丈夫か?」
あのまま突き放してくれれば良かったのに。
こんな風に優しくされるとまた甘えてしまう。
「てめぇ、こいつに何した?」
理津が殺気を全身から放ちながら水無月に叫んだ。
「花霞を渡してくれないか交渉してた所だよ」
「それは到底呑める条件じゃありませんね」
静の声は冷ややかだ。
一切の物を譲る気はないとその目が語っている。
「やっぱ強行手段かな、星月夜」
水無月の金眼がギラリと露李たちを見据えた。
「──ダメ、逃げて皆っ…」
「逃げるわけがないだろう」
疾風の呆れたような声が心を揺さぶる。
この人たちを傷つけたくないのに。
信じるのとこれはまた別問題だと理性が語る。
露李が水無月をじっと見つめる。
「水無月。行くぞ」
急に星月夜が言った。
「何で?こんな好都合な状況ないよ」
「報告するのが先だろう。それに遊ぶつもりで来たんだろうが、お前は」
そう言われて思い直したのか水無月はつまらなさそうな顔をした後、笑った。
「ふうん。それもまたあんたの感傷に浸りたくなるとやら?」
「そうかもしれないな。これではお前も面白くないだろう」
「もし姫様が“あの子”なら、面白いとかどうでもいいんだけど。次は姫様を狙うよ」
「チッ、待ちやがれ!!」
理津が飛び出すが、二人の姿は闇の中に消えた所だった。


