先代達が命をかけて守り、封印してきた花霞。
その歴史がいとも簡単に無くなってしまうのか。
彼等が花霞をどう使うかも分からない。
「嫌です。渡しません」
意外にもキッパリと答えたので、水無月が目を見開く。
「へぇ、勇敢だね。無謀な勇気は自分の身を滅ぼすよ」
星月夜は太い木にもたれて横目でこちらを見ている。
「君の信用は限りなくゼロに等しいのに、たかが道具の名誉を守ろうとするなんて本当涙ぐましいよ」
ぐっと喉に何かが詰まった。
この感覚。自分が泣くのを我慢しているときの感覚。
いつ攻撃されるか分からない状況下でも、浮かぶのは五人の顔だった。
ずいぶん、弱くなってしまった。
皆が優しくするから。
例え信用でも何でもない単なる情けだったとしても、私を救ってくれたのはあの人たちだったから。
露李の口元がふっと弛んだ。
切なく笑う風花姫の髪を風が揺らした。
「…ごめん。君は嫌いじゃないけど、やっぱり強行手段しかないみたいだね」
水無月は視線を斜め下に向けて自嘲的に吐き捨てた。
「水無月さん…?」
いつもの人を食った口調と表情が消えていることに違和感を感じた。
「よそ見をしている場合か?」
背後に迫った星月夜の声で我に帰る。
この際、私はヒトじゃなくてもいい。
「──出でよ、雹雷鬼(ヒョウライキ)」
露李の心臓部分が輝き出した。
そこに手を置くと、
「武器精製!?まさか」
水無月が瞬時に露李から離れる。
金色、はたまた銀色と二色の光を刃から放つ、その美しさに恐れを抱くような刀が、露李の胸から出てきた。
露李の髪が銀色に変わっていく。


