瞬時に禍々しいものを感じた。
人間のような姿形をしているが、とても人間とは思えない。
緑色の苔が生え、目も赤く光り頭蓋骨が割れている。
露李は瞬時に以前見たことのあるホラー映画を思い出した。
「日本は火葬だからそんなはずないわ。違う違う」
水無月が面白そうに笑う。
「よく分かったね。そうだよ、これはゾンビなんかじゃない。付喪神だよ」
付喪神。
人の強い思いがモノに宿り、守り神と化したもの。
「おかしい。モノに宿った守り神がこんな姿のはすがない!」
「白けるなあ。もう答えなんか分かってるでしょ」
見透かすような瞳に足がすくむ。
付喪神であるのなら、それは人の怨念が宿ったもの。
でなければあんな姿にはならない。
よほどの強い念だと見受けるが。
「さすが神影のお姫様。洞察力が違うね?君は特別みたいだけど」
「黙りなさい。いくら念の強い付喪神であっても身動きがとれないようでは敵ではありません。すぐに帰りなさい、神の御前ですよ」
努めて気丈に振る舞うが、これは賭けだ。
力を持たない露李の最後の砦は情けなくもハッタリでしかなかった。
「神の御前、ねえ…でもね、もうすぐだから」
「何が言いたいのですか…まさか」
露李は弾かれたように西の空を見上げた。
もう完全に日が沈む。
細いオレンジの線が消えかかっていた。
「こいつらは日が沈んだら活動するんだよ。楽しませてほしいな」
露李はギリッと歯を食い縛った。
どう考えても劣勢。
水無月を睨み付けた瞬間。
「いっ…!!」
右の二の腕に激痛が走った。
石段に刀が突き刺さっている。
邪気を纏ったその刀は、紫に耀いていた。
しかし、その痛みもすぐに消えた。
それだけではなく、傷口もだ。
「やっぱり君は違うね。…ねぇ君まさか」
「うるさい!!」
怒鳴ったのは反射的だ。
しかしそれで状況を突破できるはずもなく、露李はまた彼らを睨み付ける。


