ようやく神社の敷地内に入った。
神社までは参道に入れば近いことは近いのだが、敷地はやけにだだっ広い。
「あーやっぱ広いな、神社は」
居たたまれなくなった静に疾風から助け船が入る。
「そうだね」
毎日のように守護者の姿が元に戻るのを見ていたので、初めは驚いていた瞬間も、もうただの景色だ。
夜の闇が迫って来ている中で、疾風の透明な髪が光を放っているように見える。
「疾風の髪、綺麗」
「そうか?俺はあんまし好きじゃないけどな」
疾風の表情が固くなった。
どうしてだろう。
いつも地雷を踏んでしまう。何が悪いのかも分からない。
露李もそれを見て他の言葉を探すように唇を噛んだ。
何を言ったら良いか分からない。
饒舌な理津までもが口をつぐんでいるし、いつも至って寡黙な静はさらに気まずそうにしている。
どこかで地雷を踏む度に、守護者と風花姫の間に壁を感じてしまう。
それに加えて幼馴染みの経験値。
後者は露李にはとうてい越えられそうもないものだ。
線を引いていたのは私だったのに。
悔しい思いが心を満たした。
最初は、関わらずとも良いと思っていた。
風花姫という務めをどうにか果たし、一族からの信頼を得る。
しかし自分で決意していた割には心を許すのが早かったのではないかとも気にかかっていた。
反面、今の自分は皆と馴染みたい、理解したいと願っている。
風花姫と守護者、自分達の宿命。
力がある限り、一生を共にするのだ。
風花姫と守護者は己を凌ぐ力を持つ者が現れない限り退位することができない決まりだ。
つまり、露李たちが現在最も強いということになるのだが──当の風花姫が覚醒していない。
露李の胸は不安でいっぱいだった。
こんな自分で、花霞を封印し直すことができるのか。
最近"気"を感じ取れるようになってきたことから分かったのだが、花霞は露李が学校に居ても感じられるほどの念と邪気を放っている。
神影の封印が消えた所でまともに当てられたら気が狂ってしまうだろう。
はぁ、とため息をついたその時だった。


