「司書さん、いないね」
露李が事務室を覗いてぽつりと言った。
「あぁそれ廃棄書架から持ってきたやつだから。欲しいなら持って帰っても構わねぇらしい」
理津がまた違う書架から本を抜き出しながら答える。
「そうなんだ」
どうして捨てるんだろ、こんな綺麗なのに。
「つーかさ、露李は何でんな本欲しいんだよ?」
理津の疑問は至極真っ当なものだった。
見る限りその本は表紙さえ何も書かれておらず、単に金色の箔が貼ってあるだけだ。
ページにも文字はなく白い紙が延々と閉じられているのみ。
確かに妙な本だと気にはなったが、敢えて欲しいとは思わなかった。
「んー、何か気になるんだよなぁ」
答えにくそうに露李が言葉を紡ぐ。
「気になる、ってどんな風にですか」
静は小首を傾げている。
その仕草にきゅんとしながらも露李も首を傾げた。
「そうだねー、例えばだけど」
「はい」
「ダイエット中に食べたかったお菓子が売ってて、それが期間限定だって知ったときに買おうか買わまいか迷って、売り場を行ったり来たりしてる時みたいな」
「えと、あの」
静は困ったように笑みを浮かべた。
その表情の意味を分かっていない露李の肩に、疾風が手をかける。
「お前は表現が独特すぎる」
「え、そう?」
自分の中で最上級の例えを選んだつもりだった。
「奇遇だな疾風、同感だ」
棚にもたれた理津は本を片手に同調。
「何よ、二人とも意味わかんない」
「いやお前がな」
疾風の鋭い突っ込みに黙りこんだ。
急に静かになる場に、静が慌て出す。
「ぼ、僕は分かってましたよ!」
「ありがとう、静くんだけだよ分かってくれるのは」
それが気遣いだって気づけ。
そう言いたくて仕方がない疾風だったが、
「ほらもう帰るぞ」
敢えて言わずに三人を促すのだった。


