ぎぃ、と鈍い音を立ててドアを開けた。
「理津ー?」
この時間に離れた図書室に来る生徒は少ないらしい。
見る限り人影はない。
「ったく、どこにいるんだアイツは」
疾風は面倒くさそうに棚と棚の間を覗いていく。
しばらくその作業を続けたが、理津の姿は見えない。
「いませんねぇ…」
「もー世話が焼けるなぁ理津は」
露李が呟いた時だった。
「だーれが世話焼けるって?」
肩に重み、加えて耳にかかる温かい息。
「ちょ、何!」
理津だということは分かったが何せ心臓に悪い。
「やっぱり良い匂いだなー」
「お前は犬か」
べりっと理津を引き剥がす疾風。
「てめぇ………」
人でも殺せそうな視線を疾風に送りながら理津が唸った。
「え、え、二人ともここは文学の場だよ」
焦った露李の仲裁は少しズレている。
「ていうか何で理津は怒ってるのよ」
そう、いつもはこれしきのことで腹を立てたりしないのだ。
ゆらりと殺気を漂わせる姿に寒気を覚えた。
そして、ちらりと頭に過ったもの。
──まさか、あの声に関係してる──?
理津が乗っ取られてたとしたら。
「理津っ、理津!」
「俺はなぁ、疾風」
呼びかける露李の声も丸無視だ。
「───猫派なんだよ!」
一瞬、何のことだか分からなかった。
しかしそれを理解した瞬間、頭の中の太い何かが切れた。


