図書館棟には行ったことが無かった。
母性キラー静から気をそらそうと露李は目の前の建物を見上げた。
日が傾いて、オレンジの光が図書館棟を縁取っている。
レンガ造りで趣があり、落ち着くデザインだ。
『たす、けて』
急に周りの音が聞こえなくなった。
落ち葉の音も、靴音も。
「え、」
聞こえるはずの音が聞こえない。
それなのに、覚えのある声だけが聞こえる。
少女とも女性ともとれる声だ。
『これ以上』
これ以上、何なの。
彼女の声は遠ざかっていく。
また突然、音が戻ってきた。
「何突っ立ってんだ、行くぞ」
慌てて前を向くと疾風はもう扉の取っ手を握っている。
「露李先輩?」
静が心配そうにこちらを見ていた。
「どうかしましたか?」
「ううん、何でもない」
あれは別に悪いものじゃないと思うし。
守護者たちに心配をかけて大事にしたくはなかった。
「行きましょうか」
「うん。ありがとう」
少しひきつる顔を無理矢理笑顔に変えて、露李は疾風の元へ向かった。


