「何、今の」
「お。着いたぞ静の教室」
驚いて辺りを見回す露李とは対照的に冷静そのものな疾風がある教室の前で止まった。
「知恩くん、今から部活?」
「いや、部活入ってないし…」
「えー?じゃあクラブチームか何か?」
「最近終わったら急いで帰ってるじゃん」
「えっと、そういう訳じゃなくて」
矢継ぎ早に話しかけられて途方にくれた静が教室の真ん中で困った顔をしている光景は、まさに異様。
「ねぇ疾風」
「何だ」
「あれは何かね」
「口調どうした。いつも通りだよ、静がああなんのは」
嘘でしょ。
そう突っ込もうとしたが、一瞬でその思惑は粉砕された。
担任とおぼしき男性と副担任だろう若い女性が、気にも止めず教室に入って来た。
集団を一瞬だけ微笑ましそうに見て、目的だったであろう段ボールを一つずつ持って出て行った。
何て無駄の無い動き。
いっそ尊敬する、と目を丸くして彼らを見つめる露李を疾風が呆れたように見る。
「尊敬する」
「もっと違うとこで尊敬して欲しかっただろうな」
こつんと軽く握られた拳で頭を小突かれた。
それよりも静をどうするかだ。
集団を見つめながら策を練ろうと考えていると、ふと静がこちらを向いた
。
女子たちの意見は静の早く帰るわけをクラブチームに所属していることで固まったらしい。
実際は彼女たちの斜め上を行く理由なのだろうが。
「露李先輩」
静の呟きは悲しくも彼女たちには届かなかったようだ。
「ねぇ、どこのクラブチーム?」
「僕は…あの人を迎えに行ってるんだよ」
急に静かになったかと思えば、視線が露李に集まった。
何とも言えない状況に、露李は曖昧に笑みを浮かべた。


