ゆらり、と露李が立ち上がるのを静は目を見開いて見つめた。
「つ、露李先輩……?」
何か違和感があった静が恐る恐る訊ねると、虚ろな瞳が彼を見返した。
そして、“彼女”はふっと笑う。
「私は貴方の言う“露李”ではありません。私は彼女の写身」
「写身…?」
「彼女のもう一つの人格、と言いましょうか。本体の心が壊れかけたため、私が替わりました」
──壊れかけた。
言葉を反芻させ、静は心を落ち着けて彼女を見据えた。
「今はそれどころではありません。──出でよ」
何も起こらない。
彼女は首を傾げ、掌を見つめた。
「雹雷鬼が私を拒んでいる。…仕方がありません」
また彼女は目を閉じ──真の姿を顕現させた。
目が眩むような神々しさに、野花と香月が固まる。
「あ、あなたは、」
「鬼……!?」
二人の言葉に彼女は振り向き、美しく笑った。
露李のいつもの柔らかい微笑みではなく、妖艶な笑みだった。
「言葉に少し嫌悪が混ざっている。なるほどなるほど、本体はこの感情に惑わされているのですね。…どうしてすぐに浄化してしまわなかったのでしょう?」
最後の言葉だけが違う。
どこまでも冷たさを帯びていて──静の背筋がぞくりと寒くなる。
「静!!露李はどうした!!」
結の声が張りつめた空気を裂くように響いた。
「あら、あの方を本体は大切に想っているのですね」
「やめて、ください……!!」
やっとのことで静は声を振り絞った。
「露李先輩の感情は、先輩だけのものです!!」
すう、と彼女の視線が静をとらえた。
怖いと思ってしまった。
どちらも露李だというのに。
「勝手に晒すな、ですか。分かりました。では、早く始末してしまいましょう」
「待っ…」
彼女が薫に触れた瞬間、白い光が炸裂した。
皆が目をつぶった。


