澱みが内側に入ってくる。
これを受け止めるのも自分の役目だと、露李は思っていた。
巫女の頂点に立つ風花姫が巫女たちを管理しきれていなかったのは露李の失態だ。
「わたくし…何を」
人の群の中から野花の声がした。
プライドの高い野花がどんな反応を示すのが興味深くはあったが、今はそれどころではない。
姿を元に戻し、脅かさないように声をかける。
「野花さん。大丈夫ですか?」
「…露李さん?」
どこかスッキリとした面持ちの野花は、露李を見ても以前のように顔をしかめることは無かった。
しかし、自分の心境の変化を不思議に思ったのか首を傾げる。
「え、ええ……大丈夫ですわよ。何かしら…」
「もう少しで皆さんも目を覚まされるでしょう。それより、今までのことを覚えていらっしゃいますか?」
まだ虚ろな瞳で座り込んでいる周りを見渡し、野花は疑問を深めている。
「覚えていますわ。……私は、」
さっと顔が青ざめた。
その視線は真っ直ぐに怪物の方へ向いている。
「何も言わないで。思い返さないで。それよりもまず、あれを止めることを考えなくてはいけません」
「は、はい。でも…」
「いくつか聞きたいことがあります。あの犬や猫たちをあのようにすることを命令したのは誰ですか?」
「か、克雪様です」
「そうですか。では、あの動物たちはどうやって手に入れたのですか?」
「分かりません。ですが、克雪様が連れてこられましたわ」
「そうなのですね」
なら、きっと問題ない。
克雪はまだ、露李を甘く見たままだ。
「静くん!」
へたりと座り込んだ野花から目を離し、静を呼ぶ。
素早く結が風を送り、文月が木の枝で路を作った。
「お呼びでしょうか」
「うん、声を届けてほしいの。ここからじゃちゃんと聞こえないから」
静が頷き、少し目をつぶった。
「【拡声。かの者の思うままに】」
萌黄の気が舞い、露李の喉元を柔らかく包んだ。
「皆さん、聞いてください。それは克雪が造り出した紛い物です。容赦なく斬れとは言いませんが、これまでのような手加減は不要です」
それだけ伝えれば大丈夫だろう。
静はにこりと笑い、怪物の方へ走り去った。


