「おいっ、露李!何やって…!」
背後から聞こえる守護者たちの声。
薫は煩そうにそちらに目をやった。
「里の災厄が偉そうに……」
「貴女たちにとってはそうかもしれませんね」
明らかに様子のおかしい薫に、露李は眉をひそめた。
そして、はっと息を飲む。
「お祖母様」
「この汚い鬼…この手で殺して、この神影の、繁栄を、汚い、鬼、穢らわしい、この」
もうその目が暗いことに、私はどうして気づかなかったのだろう。
露李は、またゆっくりと薫に歩み寄った。
簡単だ。
今まで自分のことしか考えてなかったから、気づけなかった。
他の人を考えられるほど心に余裕があったなら、きっと気づけた。
「お祖母様。いえ、そう呼ぶべきなのか判断しかねますが──」
血走った目の老婆の方に、手を置く。
「──貴女は、いつ、殺されたんですか?」
「何を……」
「お祖母様だけが分からなかった。何を考え、どう生きているのか。ここまで進行して、ここまで単純になるまで私は分からなかった」
触れた部分に再び意識を向ける。
その瞬間、断末魔のような悲鳴が森に響き渡った。
「手を、離せええええ!!!!」
また薫が手を振り上げたとき、緑のものが何か彼女の手に巻き付いた。
草の蔓だった。
強固な蔓は、薫がもがく間も全身に取り付く。
「困った子だね」
文月が軽く着地し、露李の隣に立った。
「この人、どうしたの?すごい怖いけど」
離せ離せと恐ろしい声で喚き続ける女を見ながら文月は爽やかに露李に訊ねた。
「お祖母様は何かに心を蝕まれて、今ほとんど魂が無い状態です。言い換えるなら、怨念だけで生きています」
それが生きていると言えるのか。
「証拠はありませんが、克雪だと思います。他の人達はまだそこまで進行していないので、澱みがあるくらいです。これを解消したらきっと」
「普通になる?」
文月の言葉に頷き、露李はすっと祖母の手をとった。
「花霞と同じように、私が浄化します。お祖母様はその後…どうなるのか保証できませんが」
全く分からない。
しかし、それ以外の方法は無い。
「あの怪物も、ある程度近づいてから浄化します。核の中に何らかの術式があるか確かめて下さい」
「分かったよ」
そう言うと文月は露李の頭を一撫でし、怪物の方へ向かった。
「触るなあああああ!!」
苦しそうに顔を歪める祖母。
そんな顔、できれば見たくはなかった。
「…ごめんなさい、お祖母様」
ギャアアアア、とまた悲鳴が上がる。
「──【浄化】」
金銀の光の球がふわふわと舞い、一帯を包んだ。
赤黒い靄のようなものが薫や一族から上る。


