包丁だった。おかしな所は何もない、ただの包丁。
それを握っている手の持ち主だけが異様だった。
「貴女は鬼です。憎むべき鬼……私たちの敵。禍々しいその姿──私たちが消すべきなのです」
「あぁ、どうりで。居る間に何も式典がないと思いました。おかげでゴロゴロできましたが」
「今のうちですよ、そのような口を叩いていられるのは」
口が減らないのはそっちだ。
そう言いたかったが、さすがに口を慎む。
──他の人たちの澱みは浄化できるとして、お祖母様はどうしたら良いか分かんないわ。
お祖母様がどんな方かも掴めてないし。
「狂ってますね、お祖母様。後ろの人達も人形みたいにして、何か楽しかったですか?」
「必要なことです。貴女を消し、この家の富を築くために」
「巫女が聞いて呆れるわ」
間髪入れずに発した言葉は薫を心底バカにした響きを纏い、即座にシワの多い顔にさらに深いシワが刻まれる。
「お黙りなさい、汚い鬼風情が…!」
駆け出した薫を避けることもせず、露李はその刃を受け止めた。
ポタリと赤い雫が乾いた土に染みをつくった。
「これも術がかけてあるんですね。蔵で私を縛っていた鎖にかけてあったのと同じ」
「くっ…そうです、痛いでしょう?苦しいでしょう?そのように苦しんで死ぬが良いのです」
狂気じみた笑みが老いた顔に貼り付いている。
露李は氷点下の眼差しで薫を見下ろした。
「私は死にません。…それに、いつまでもこんなもので私を縛っておけると思わないで頂きたい」
音も立てずに鎖が粉になり、風に飛ばされていく。
祖母の顔が恐怖に染まったのを見届け、少し距離を置く。
「見て、お祖母様」
掌をかざし痛む部分に意識を向ける。
ふわりと銀色の光が舞い、傷が癒えていくのが分かった。
薫にも同じものが見えているはずだ。
「化け物ッ!!!」
予想通りの叫びに笑いが込み上げる。
「そう言うと思いました。ですが、化け物は貴女です。お祖母様」
あまりにも悲しくて、あまりに滑稽だ。


