「あの、いえ…」
──これは。その場で、口にすることではない。
静が口ごもると結は何か察した様子で、そうか、とだけ言って目を逸らした。
「露李様のお部屋へお運びしましょうか?」
桜木が無表情で訊ねたが、すぐに少し首を傾げた。
「……今宵は、守護者様とご一緒の方が宜しいかと思われますが」
意味深な口ぶりに緊張が走る。
「そうだなー!じゃあ、真ん中にお願いしまっす!」
明るい口調で結が言い、桜木は頷いてから準備をする。
洗練された手つきで寝床が用意され、疾風が露李を運んで布団に入れた。
「それでは失礼致します。何かご用がございましたら、突き当たりの控え室におりますので」
「ありがとうございました」
文月がそそくさと去ろうとする桜木の背中を追うように礼を言うと、彼女は躊躇いがちに振り返った。
俯いているので表情は見えない。
だが、彼女は何故かひどく汗をかいていた。
「どうか──露李様から離れないでください」
懇願、というのが相応しい表現だろう。
その声色で桜木は言葉を残し、足早に去っていった。


