【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく


 薫が来たのは、また時間が経ってからだった。

薫の贔屓の銘柄のお茶と、それに合う茶菓子を桜木と雛菊が持ってきて、露李と薫が部屋の中心で対面した。

中庭に面した縁側のある部屋なのだが、桜木たちは寒いだろうに障子の外に控えているようだ。

すごい忠誠心ね、と思いながら祖母の顔を見る。

相変わらず厳しい面持ちだが、前よりも皺が濃くなった気がした。

守護者たちは部屋の隅に座っているが、気配も感じない。
訓練されているというのはそういうことか、と感心した。

立場上、風花姫の護衛として気がつかれないようにしなければならないこともあるからだろう。


「露李さん、改めてお帰りなさい。よく戻りましたね」

「はい。お祖母様」


受け答えが神影家のモードに切り替わる。

お祖母様、お母様。

昔から父親はいなかったから、父様と呼ぶことはなかったが。

母や祖母は目上なので絶対的に様付け。

初対面や知り合いレベルは様、またはさん付け。

直系の者として、自分に仕える者は年上の克雪でさえも呼び捨てで呼ぶよう躾られていた。

あまり好ましくなかったが、結局はそうでもしなければ暮らしていけなかった。


「海松さんという方からお便りを頂きました。未琴が…亡くなったそうですね。経緯を教えてください」


祖母の目からは何も読み取れない。

露李は少し間を置いて、口を開いた。


「風花姫の使命は、花霞を封印することでした。花霞は花姫という古の姫君の持ち物であり、そこには悪鬼と化した男の魂が封印されていました」


霧氷を悪く言うのは憚られた。

彼も愛のために怒り、命を落としたのだから。

有明のことも語りたくはなかった。

朱音のことも。

この家の人は誰も理解できない。

神が人であるなどと、信じない。

そして水無月が未琴を殺害したのも、全て自分のために行ったこと。


「しかし、花霞から放出される邪気に飲まれる者も多くいましたが、その邪気を使って何かを成し遂げよう。利用しようとする人々がいました。私と守護者様は彼等と戦いましたが──」


そこまで話して、躊躇う。

薫は続きを待ってくれるようだが、少し焦った。


「──私が例の力を解放したことで、母様の術が私を包み眠りにつかせました。襲撃してきた彼等の中には私と同種の力を持つ者がいたため、そこで怒りを買いました。そして母様は──戦うために風雅様を操ろうとしましたが、拒まれたので風雅様を刺しました」


薫が目を大きく見開いた。

いつも冷静だった未琴がそんな行動に出るとは思えなかったからだろう。


「まさか…未琴が…娘が」


「力を愚弄され、仲間を操った上に刺したという点で相手を煽り、母様は殺害されました」


息苦しいような沈黙が続いた。

薫は俯き、露李は目をそらさずに祖母を見つめた。


しばらくして薫が顔を上げる。


「…私の力が及ばず、申し訳ありませんでした。母様を──」


「いえ、問題ありません」


言葉を遮られる。

一瞬、理解できなかった。


「も──問題、ない?」


薫の表情は先程と変わらない。


「ええ。聞いてからもう一度考えましたが、やはり未琴は神影にとってマイナスな働きをすることが多いようですね。そろそろ潮時かと思ってはいましたが、折よく始末されたようです」


何を言われたのか、何を意味する言葉なのか、果たしてそれが言葉なのかどうかも分からなかった。