書道の稽古を終え、ぶらぶらと縁側で桜を見ていた。
早く遊びに行きたい。
香月が迎えに来るのを待ちながら、隣に座る桜木を見上げる。
「桜木、このお花はあなたの名前とおなじね」
「そうですね。露李様はよくここで桜をご覧になっていますね」
「うん。桜、すきなの!でもねえ、桜木の方がもっとすき!」
「まあ。嬉しいお言葉、ありがとうございます」
「桜木ももっと笑えば良いのにー」
「私は良いのです。…それに、露李様も薫様に叱られてしまいますよ」
「お祖母様はきびしすぎるのー!」
困ったように眉を下げるのはいつもの桜木の仕草だ。
露李は諦めてまた桜を見つめた。
しかし、不意に何か悪い予感がした。
【露李…】
何かに呼ばれているような気がして立ち上がる。
「露李様!?」
助けに行かなくては。
根拠はないが、そう思った。
走って走って──蔵の前まで来たところで足を止める。
「あれ、露李ちゃん。何をしているの?」
「かつゆき……」
教育係の克雪が蔵の扉に背を預けて立っていた。
「なんか、よばれてる気がしたの」
「呼ばれてる?この中に?」
「うん。ここで何してるの?」
「僕?僕はねぇ、見張りかなぁ」
そう言いつつ、克雪は目を眇める。
疑うような眼差しだ。
「みはり…?なにをしているの?」
「お仕置きだよぉ。香月ちゃんの」
「香月の……?」
それは、私のせいか。
そう思ったのが伝わったのだろう。
克雪はゆるりと笑った。
「仕方ないよぉ、君を簡単に外に連れ出しちゃいけないからねぇ。何せ、どうしてか知らないけど君は特別な子だから」
「そこをどいて、かつゆき。それならわたしのせいだよ」
「……君、何者?まさか未琴ちゃんの神託は──」
「しんたく?なあに、それ」
「いや。だめだよぉ、僕は薫さんからお仕事を貰ったんだからねぇ」
「どいて、かつゆき」
何を見たのか。何があったのか。
自分では分からなかったが、克雪が大きく目を見開いて飛び退くのが分かった。
それを良いことに蔵に入る。
声がする方向へ走り、そこにある光景に声を失った。


