こうして訪れていた森が、自分を助けてくれた。
朱音が露李に危害を加えようとしたとき。
侵入者が来たとき。
遡るなら、神影家で追われていたとき。
言葉を交わすことはなかったが、森は生きている。
世界を塗り替えようとしたときに彼らの声を聞いた。
「ありがとう」
幹に触れていきながら声をかけていく。
【風花姫】
冷たい風に乗って、“声”が聞こえた。
露李はハッと顔を上げた。
道が開けた先に、月明かりに照らされて女が一人立っていた。
思わず身構えたが、すぐに警戒を解いた。
柔らかい気が彼女から発されていたからだ。
「こんばんは」
挨拶すると、彼女はゆっくりと頭を下げた。
美しい女性だった。
抜けるような白い肌に、濃い茶色の瞳。
髪は深い緑色で、纏う衣服はどこか輝いて見える。
「初めまして、露李姫。貴女がここを訪れて下さって、とても嬉しい」
「こちらこそ。あの…貴女は?」
そう訊ねると、緑の姫君はふわりと微笑んだ。
心が穏やかになるような笑顔だ。
「私は森を司る者。芽生(めい)とお呼びください」
「芽生、さん…。私は」
名乗りかけると、芽生はまた笑った。
「知っています。神影 露李さん」
「あ、そうかさっき露李姫って」
「うふふ。貴女のことは新(あらた)から聞いています」
何のことか分からずに首を傾げると、芽生はすっと手を伸ばした。
見る間に木の枝が延びてきて、椅子のような形を作った。
そして座るように促す。
「ありがとうございます。あの、新さんって」
「ああ、貴女が育った家の森を担当する私の仲間です。露李姫は私達に良くして下さったと申していました」
「いえ、そんな…私こそ本当に助けて頂いて」
そこで言葉を切ると、芽生はまた優しく微笑んだ。
「どうなさいましたか?」
「…見ていてくださったんですね」
「勿論です。貴女はとても優しい心を持っています。森は優しく賢い者に手を貸すものです」
率直に褒められて頬が熱くなる。
露李は視線を泳がせ、曖昧に笑った。
「芽生さんは今日どうして会ってくださったんですか?」
不思議に思っていたことを訊ねる。
芽生は表情を曇らせた。


