「少し術を弱めておいてやるから、自分の力で出ろ。あの人はそう言った。そして俺は牢を出た。家に帰るつもりで来た道を戻ったけど、既に母の系統の人たちはいなかった。どこに行けば良いかも分からなかったので、俺はババアの世話になった」
「有明様は、秋篠家をご存知なかったんですか?」
露李が尋ねると、水無月は首を横に振った。
「今だから言えるけど、あの人は目的を達成するために生きてるようなものだったよ。鬼だってことも隠してた…というより、どうでも良かったんだろうね。何にせよ、強くて使えそうな俺を手放すはずがない」
「じゃあ、お母様の行方は知らないの?兄弟は?」
「俺は一人息子だからね。さあ…どうでも良かったんだ。母は俺を恐れてたし、ウジウジしてて好きじゃなかった」
笑顔で言いきる水無月に言葉を失う。
何も言おうとは思わなかった。
露李も、その恐れられる感覚を知っていたからだ。
自分を恐れる者を好きになることは難しい。
「まあ、ざっとこんなもんだよー。どう?」
「うん。話してくれて…ありがとう」
何も尋ねることは無かった。
何故かやるせない気持ちで唇を噛んだ。
皆が聞き入っている間にも食事の用意は整っていた。
「皆さん、そろそろ召し上がってください」
海松がタイミング良く声をかけてくれたので、揃って手を合わせた。
最後のひとときを、楽しく過ごすために。
「いただきます!」
声が静かな朝の空気を震わせた。


