朱音がまじまじと水無月を見ている。
露李はちょんちょんと彼の着物の袖を引っ張った。
「どうしたの?露李」
「朱音さんが何か話したそうだから。喋ってあげたら?」
水無月は笑顔で聞いていたが、朱音に目を向けた途端に恐ろしい形相になった。
「えっと…あの私…」
「氷紀、優しく!話してね!」
口ごもってしまった朱音を見た露李が水無月に言うと、瞬時にその顔に朗らかな笑みが浮かぶ。
ただし、温もりというものが一欠片も含まれていなかった。
「何ですか朱音さん?俺に何か言いたいことがあるみたいですね?」
柔らかい口調だが、そのどこにも好意的な感情は見当たらない。
結が視界の端でニヤニヤしているのをとらえながらも笑顔を保ちながら、水無月は先を促すように首を傾げた。
「言いたいというほどではありませんわ…ただ、私の一族の者でも貴方は群を抜いて美しいと思っていましたの」
「そうですか。ええ、俺は美しいですよ。現秋篠家の頭領ですからね。まあ、今は皆どこで暮らして何をしているか知りませんが。きっと母は俺が死んだと思っています」
ふてぶてしいにも程がある発言だったが、露李は目を丸くして水無月を見つめた。
「ん、どうしたのかな?」
「氷紀、一度もそれ話してくれなかったじゃない」
そうだっけか、と顔をしかめる。
水無月は不満げな露李に微笑みながら記憶を辿った。
思えば、露李に関係のない部分は話したことがなかった。
──どうでも良かったからなー。
内心そう思うが、露李にとってはきっと大事だろうということは容易に推測できる。
家族を持たない彼女にとって戻る場所があるのは大切なことなはずだった。


