「誰だ…うるっせぇんだよ」
ゴロゴロと地を這うような低い声が布団の中から聞こえてきた。
そこに理津がいることは分かったが、いつものような軽い調子ではない。
露李は眉間に皺を寄せてそこに近づく。
「三つ数えたら布団を剥ぐ。疾風、準備はいいな?露李、大丈夫か?」
「大丈夫です」
「いけます」
何をしているのだろうという疑問は一旦仕舞っておいて、露李は威勢良く返事をした。
満足げに結が頷き、理津と向き合う。
「行くぞ。さん、に──いち!」
「おらあっ!」
「理津おはよう!朝だよ!」
一瞬で姿を現した理津は嫌そうに顔を歪めている。
結は容赦なく毛布も剥ぎ取り、疾風は早業で理津を捕まえた。
「くっそ、何だてめぇら…ただじゃおかねぇぞ…」
恐ろしい声で言う理津。
辺り一面に紫の炎が点り、理津の周りをふよふよと漂った。
いつでも攻撃できるように控えているらしい。
驚き、引き、怖がりながら露李が歩み寄る。
捕らわれた宇宙人のような格好だが、理津は薄く目を開けた。
紫の瞳が瞼の下から現れる。
「理津?理津。おはよう。私だよ、露李。もう起きる時間だよ、よく眠れた?」
こんな起こし方で、良くも何もあるものか──と自分に突っ込みながら理津に話しかける。
紫の目が少し驚いたように見開かれる。
周りに浮かんでいた炎が消えた。
「露李……?」
「そう、私。手荒でごめん、おはよう」
根気強く声をかけていると、理津は疾風の腕をほどいて自分の足で立った。
「んー…今、何時だ?」
「たぶん八時前じゃないかな」
「あー…やべぇ。こりゃ海松に怒られるかもしれねぇな…」
「今日は色々あるから大丈夫じゃないかな」
「そうだと良いけどな…」
理津は大きく欠伸をして、帯を緩め始めた。
しかし途中で手を止めて露李を振り返る。
「なにお前、俺の着替え見てぇの?」
「ちっ…違う!もう!疾風、結先輩!行きますよ!」
露李がぷりぷり怒りながら二人の方を向くと、彼等は目を丸くして露李を見ていた。
袖を掴んで引っ張って部屋から出て、ぐいぐい廊下を歩いていく。
「何トロトロしてんですか!結先輩も疾風も!」
「いや、だってすげー新記録」
「そうだ。あんなにアイツがしゃっきり起き出したのって初めてだぞ、露李」
二人の言葉を聞いて手を離し、くるりと振り返る。
「え、あれ以上寝起きが悪いなんてあるの?」
「…………これから理津を起こすのはお前な!」
明るく結に言い放たれ、露李はまた首を傾げるのだった。


