疾風と理津、結はまだ寝ているようだ。
三人の部屋があるところに着くと、露李は少し考え込んだ。
理津、結、疾風の順で部屋が並んでいる。
部屋だけは沢山ある神影家の屋敷だが、露李もあまり他の部屋に入ってみたいと思うことはなかった。
掃除以外で入ったことがあるのは未琴の部屋だけかもしれない。
──理津は色々なんか変態だし、結先輩を起こしてから疾風かな。
そうしよう、と決めてから結の部屋の前に立つ。
「結せんぱーい。朝ですよ」
声をかけてみるも、返事はない。
やはりまだ寝ているのだろう。
このところ結は遅くまで書庫から持ってきた本を読んでいて、何やら勉強しているようだった。
騒ぐときは驚くほどうるさいのに、勉強熱心で集中力が続くのが結のすごいところだ。
「結先輩。起きて下さい、今日はやることが沢山あるんですよ」
実は、露李には秋雨や朱音には秘密で計画していることがあった。
海松と守護者、水無月にだけ話すつもりで秘めていたのだ。
もうすぐ学校に行けそうでもあるし、新学期も始まる。
春休みと呼ばれる期間の間に必要な勉強を済ませて、心苦しいが進級できるように操作しなければならない。
苦労のおかげか、水無月と海松が作ったテストに皆が合格出来るようになっていた。
結からの返事がないので、開けますよと声をかけてからそろそろと襖を横にずらす。
部屋には山盛りの本が散らばっていて、その中には結の趣味である星や星座に関する本も混じっていた。
しかし大体は古い本ばかりで、何を勉強しているのか露李は首を傾げる。
背表紙に書かれた文字は達筆すぎて読めなかった。
そして無理矢理作られたスペースに、適当に──豪快に布団が敷かれていて、その上に結が眠っていた。
普段は凛としているが、顔自体は可愛らしく小柄なこともあって、思わず寝顔をじっくり眺めてしまった。
「結先輩。起きてください」
美しい金髪がさらりと揺れて、唸りながら寝返りを打つ。
向こうを向いてしまったので露李もそちら側に回り、再び声をかける。
「結先輩、朝ですよ」
起きない。
何だか起こすのも可哀想になってきたが、意を決してその身体を揺すった。
「結先輩!朝です!おはようございます!」
軽く瞼が揺れて、翡翠が露李を見た。
「はよ…」
ほっとして笑いかける彼女をまじまじと見ると、その目が驚愕の色に染まる。
「え、はっ!?」
がばりと起き上がり、枕元にちょこんと座っている露李と部屋とを交互に見る。
「おはようございます、結先輩」
「え!?は、何でいんの!?」
「何って起こしに来たんですよ。外から呼んだけど起きなかったので」
「いや、でも露李、そんな易々と男の部屋に入るんじゃねーよ…」
「はい?」
「文月とか水無月の部屋には行ってねーだろうな?」
「行きましたけど」
「は!?…よく無事だったな」
よく分からないが、結は露李を心配してくれたらしい。
「全然無事ですよ。兄様は寝起きが良いし、文月先輩は廊下であっただけで───」
廊下で文月にからからわれたことを思い出し、途中で言葉を切ってしまう。
不審に思った結が眉をひそめる。
「何かされたのか?」
「え!?あ、いえ」
「何かしたなー、これは」
苦笑しながら結が立ち上がり、寝間着の帯を解こうとして手を止める。
「…悪い露李、そこにいると着替えられない」
「すみませんでしたっ!失礼しました!」
真っ赤になって部屋を出るのだった。


