その次は文月だったのだが、起こす必要はなかった。
既に準備を終えて部屋から出てきたのだ。
その後ろには静もいる。
「あっ、もう起きてたんですね。おはようございます、文月先輩。あ、おはよう静くん」
「おはよ、露李ちゃん」
「おはようございます」
文月は完璧にいつも通りだったが、静はまだ眠そうだ。
「静くん眠そうだね」
「えっ、ぼんやりして見えますか!?」
「ぼんやりというより、眠そうだなあって感じ」
静は頬を赤らめて下を向く。
「あーあ言われちゃった。静はね、早起きしようって意識はあるんだけど寝るの大好きだから実は」
にやにやしながら文月が静の頭を撫でた。
「言わないでくださいよ!…そうなんです、眠るの好きなんです」
反論しながらも渋々認めて、静はエヘヘと笑う。
その可愛らしさにまた母性が刺激されて、自然に笑みがこぼれた。
「他のやつらも起こしに行くの?」
「はい。文月先輩もどうですか?」
「…いや、俺は遠慮しとく」
「?そうですか。でもすごいですね、きちんと起きて」
「それは露李ちゃんもでしょ。…でもどうしようかな」
苦笑いしていた文月は、不意に妖しく微笑んだ。
その変わり方に露李と静の頭にハテナが飛び交う。
何をどうしようというのか。
考えていると、人差し指で顎を少し持ち上げられて文月と目があった。
視線が重なり、浅葱の目が露李を見つめている。
「あの……」
「露李ちゃんが起こしに来てくれるなら、寝坊も良いかもしれないね?」
端正な顔がいつもより近く、その瞳に吸い込まれそうになる。
頬が熱い、と思った瞬間に文月が意外そうな顔をして離れた。
「…思った以上の反応だねぇ」
「はい?」
「これは期待して良いのかな、でも露李ちゃんってウブそうだし。どう思う?静──」
何やかやと呟きながら文月が静を振り向いて、呆れたように笑った。
「あーごめん、静」
真っ赤になった静は石像のように固まっていた。
つんつんとつつかれて我に返ると、ふいっと目を背ける。
「からかっただけなんだけど、ねえ、ごめん静。…あー、露李ちゃん。俺たちはもう行くね」
はい、とその言葉しか出せずに二人を見送る。
そして。
────何、今の!?
ぼんやりした自分の頭を叱咤しながら、心の中で叫ぶのだった。


