【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく

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 露李は奇妙な感覚に囚われていた。

夜、美喜と海松と風呂に入ってから沢山話をしてから一緒に自分の部屋で眠ったのは覚えている。


しかし、露李が今目を開けた場所は自分の部屋ではなかった。

そして布団に入ってもいないことに驚いた。

立派な宝石で造られている、透き通った美しい椅子に座っていた。


露李がいたのは、洋風な趣のある城だった。

少しして、それが神殿であるらしいと気がついた。


以前、学校の世界史の授業で見た西洋の城に似ている。

密かに憧れていたので嬉しくなったが、それどころではない。

露李の回りには様々な供物が並べられている。


そして思い出した───。


自分は神であることを。

不思議にも、これが自分の造り出した世界なのだと確信した。


どうか、優しい世界でありますように。


そう祈った。


突然、扉がばたんと開かれた。

老いた司祭が入ってくる。


そして、椅子を見上げた。

思わず身体を固くする。


大切な神の椅子に座っている小娘など見つければただでは済まされない──そう思ったが、司祭は何ということもなく跪いた。

何かを唱えている。


露李はじっと耳をすませた。


「──民が幸せでありますように。この世に住まう全ての者が、愛を受け幸せでありますように。神よ──高貴なる、くちなしの姫君よ──私たちに愛を」


唇が綻ぶ。

また司祭が顔を上げた。

露李に気がつくことはない。

首を傾げたところで、ハッとした。


──何で忘れてたんだろう。


“神”は神影の世界以外では、実体を伴わないのだ。

朱音が怯えた理由。


誰からも認知されなくなること。


その本当の意味がやっと分かった。

何て綺麗で、残酷で、寂しいのだろう。


露李は微笑んだ。意識が薄れてきた。


「皆が、幸せでありますように。私も祈っています」


くちなしの花びらが舞う。


司祭が大きく見開いて花を手に取るのが視界に入ったのを最後に、露李は目を閉じた。