「あっ、そうだ!どうして秋雨さんはその名前になったんですか?」
思いついて尋ねると、秋雨の顔がさっと赤くなる。
何か面白い訳がありそうだと勢い良く朱音を振り返ると、彼女も面白そうに露李を見返した。
「何かあるんでしょう?」
「ありますわ。うふふ、時雨、教えても良くて?」
「…………勝手にしろ」
間があったことがますます好奇心を掻き立て、露李はわくわくして朱音に近づく。
「時雨と私は百年の年の差でしょう?扇莉も花も、奔放な方でしたから私の面倒をよく見て下さっていましたの」
「わあ、確かに秋雨さんは面倒見が良さそう!」
「そうですのよ。そしてね、あまりに心配性なものですから、扇莉がお前はもう時雨という名をやめて秋篠家の時雨という意味で秋雨にしたらどうか、なんて仰ったんですの」
「さすが有明さま、粋ですね」
「でしょう?それから、時雨はそう呼ばれていますのよ」
「すごいですね…」
朱音と露李がきゃっきゃと盛り上がっているのを眺めながら、水無月は終始赤くなって黙りこんでいる秋雨の傍に寄った。
「……何だ」
「秋雨くんも一途だよねえ。好きな女に貰った名前を後生大事にして名乗ってるなんて」
「な……!おま、この……!」
「何?聞こえないんだけど。でもさあ、俺も同じになりそうだからやだなあ」
「どういう意味だ」
「やっぱり俺って“兄様”だから。そのポジションから逃れられそうにないっていうかさー。嫌いじゃないしねえ」
秋雨は何か思うところがあったようで、こくりと頷いて同意する。
「幼馴染みから変われなかったのは俺もそうだ。結果、あいつを止めることもできたはずなのにそうしなかった…悲しみを知っているからというのは言い訳にならないのにな」
「秋雨くんはもう幼馴染みっていうか従者だったじゃん。それかお母さんって感じ」
「お母さんだと……?」
「うん。……でもさ、秋雨くん」
「何だ」
「あのババアはムカつくけど……俺を救ってくれたから。感謝してることはしてるんだよ」
「!お前」
「あーあーうっさい。ところでさ」
「話を変えすぎだ。何だ今度は」
「元気でいなよ、秋雨くんも」
思いがけない言葉に秋雨の顔が真っ青になる。
「気持ち悪い……」
「はあ!?ふざけてんの!?……おい貴様風雅、殺すぞ」
「は!?何で俺なんだよ!!」
楽しい夜が過ぎていく。
また、彼等の歯車が回り始めた───。


