秋雨に駆け寄ると、彼は少し嬉しそうに照れ笑いをした。
朱音がくすりと笑う。
水無月と結は秋雨のその顔を驚いたように見つめた。
「ただいまです!」
「お帰りなさいですわ」
真っ先に朱音がそう言ってくれたのが何だか嬉しくて、露李は頬を緩めた。
「本当に露李姫…露李ちゃんは皆さんに好かれているのですわね」
「勿論だろうが。貴様、今まで目をどこに付けて歩いていた?」
盛大に嫌味を言って水無月がそっぽを向く。
朱音が露李と話すのがどうにも気に食わないらしく、始終睨みをきかせていた。
根っからの姫君である朱音はその眼光にも怯えてしまう。
もう神だからと言って強く振る舞うことも、警戒することもないのだ。
朱音の変貌ぶりに露李も多少は驚いたが、どこか姉のような親しみを感じていた。
「露李、あいつらに何もらったんだー?」
「ネックレスです!特別に力をこめて作って下さったみたいで」
結に得意気に見せると、良かったなと頭を撫でてくれる。
秋雨は露李の手に乗っているものを見ると、じっと彼女の目を見つめた。
「露李姫。もう聞いただろうが、これは俺達の真名に誓って力を注いだものだ。俺の名は──時雨。これまで言わずに、すまなかった」
「良いんです。…本当に、行っちゃうんですか?」
寂しそうな露李に秋雨はまた嬉しそうに笑う。
「ああ。貴女が助けを求めているときは、そのネックレスに触れて願うといい。何かしらの助けになる」
「どういうことですか?」
「美喜の式神を操る力、宵菊の花を現出させる力、睡蓮の幻術、星月夜の身体能力の増強、俺の鬼の力──言霊を得意としていたから、それになるが。それぞれ込められている。それならば姿を変えずとも、術を完成させられる」
秋雨たちの心遣いに胸が熱くなった。
あまりの嬉しさに言葉が見つからない。
水無月が頭を軽く撫で、小さな声で秋雨に礼を言うのが聞こえた。
「ありがとうございます!」
元気な露李の声。
和やかな雰囲気が流れた。
明日の朝、星月夜の迎えと共に秋雨たちは出発するという。
そして、露李は彼等を見送ってから朱音を別の“世界”へ送る。
それまでの時間を楽しく過ごそうと、皆が笑顔を浮かべた。


