自覚は無かったがやはり身体は冷えきっていたらしく、部屋の中に入るとじんわりと内側が溶けるような感覚があった。
「まあ露李様!早くこちらへ!」
台所からお茶を持ってきた海松が驚いた様子で露李をストーブの前に促した。
後ろについて盆を運んでいた美喜も苦笑する。
「あんたねえ、姫様が風邪引いたら一大事でしょうよ。怪我も治ったばかりなのに」
笑って誤魔化しながら露李はストーブに近づいて手を温めると、にっこり笑顔で理津を振り向いた。
海松と水無月から出された課題を仕上げていた理津だったが、ふと視線に気がついて顔を上げる。
「何だよ。そんなこっち見んな」
「えーなんで?」
「集中出来ねぇだろうが。あんまり見てっと食うぞ」
そんなことを言うわりに無視はしないのが理津だ。
にやにやと笑って手元を覗きこみ、またじっと見つめる。
理津が動きをピタリと止めて顔をしかめた。
「お前なぁ、邪魔すんなよ。秋雨とかと話あんだろ」
「あれ?眼鏡かけてたっけ理津」
「話を聞けよ。…勉強の時だけかけてる。知らなかったか?わりと一緒にいただろうが」
「だって理津学校ではほとんど寝てるし、一緒に勉強するときも護衛中とかだったからかけてなかったじゃない」
「…そうか。まぁそうだな、こんな穏やかなのもまたとねぇからな」
さらさらとノートの行に数式を書き込み、まだ露李が居るのを確認してため息をついた。
「だから何だってんだよ…おい疾風、こいつどうにかしてくれ」
隣で本を読んでいる疾風に助けを求める。
しかし彼もちらりと眠そうな視線を寄越すだけだった。
「何故だ、別に困ってないだろ」
「いやいや、俺は困ってんの。はあ、もう露李!何なんだお前は!」
「あれ出して」
は?と理津が怪訝そうになる。
露李はにっこり笑って繰り返した。
「寒いからこの前出してくれたやつ、出して」
語尾にハートマークでもついていそうだ。
盛大に溜め息をついてから、理津は手をかざした。
ぽんぽんと紫の火の玉が現れ、露李の周りに浮いた。
「ほらよ」
「ありがとう」
嬉しそうに笑って水無月たちの所へ戻る露李に、調子のいいやつ、の呟くのだった。


