不思議そうな朱音を連れて、庭におりる。
露李の白い肌が夜の闇に映える。
朱音の赤い瞳がきらりと光った。
ちらちらと雪が舞っている。
「露李姫?どうしたんですの…風邪を引かれてしまいますわ」
「大丈夫です。…朱音さま」
「何ですの?」
「私に、お母様はいるんですか?」
朱音が目を見開いて口を閉ざす。
「いないんですね」
「…先に申し上げた通り、貴女は私が創った存在ですの」
「でも、夏焼家なんですね?」
「花姫の魂だからですわ…その容姿から、夏焼家に貴女を置いて記憶に干渉し、その家の頭領から生まれたことにしたのですわ」
「そして、私が夏焼家を消したのですね」
沈黙が二人の間を流れた。
「その後は、後からできた神影家という低級の家系に。…申し訳ありません。そこからは、私は」
「大丈夫です。これで決心がつきました」
白い風花を背景に、露李は笑う。
髪飾りを自ら外し、縁側の上に置いた。
「なに、を……なさるのです」
「朱音さま。貴女はいずれ、死んでしまうのでしょう?」
これから年をとり、人間のように老いて。
「でも、鬼は。そして、神は…死なない。そうですよね?」
「…ええ。時間の流れが普通とは違ってしまうのです。だから貴女はもう…老いることも」
「そうですよね。ねえ、朱音様。もう私には、貴女しかいないんです。私の存在を…愛してくれたのは貴女だけ」
歪んでいると分かっていた。
朱音の想いは母としての愛ではない。
自分が家族というものに執着しているのも分かっていた。
けれど、生きてほしいとこれほどまでに願ってくれたのは。
自分を生み出したのは。自分の生まれた瞬間を知っているのは。
朱音だけなのだ。
「お願い。死なないで。どこにも行かないで。お願いです」
母と慕った人物は、自分のことなど愛していなかった。
それが露李の心を抉っていた。
「露李姫───」
「お願いを、一つだけ聞いてください」
朱音が息を飲むのが分かった。
「…何なりと」
その返事を聞いたと同時に、露李の髪が銀色に染まった。
金色の双眼が朱音を射抜く。
『お前は与えることも出来るんだ』
以前聞いた結の言葉を胸に、志を強く持って。
「朱音さまがもう一度、鬼の理を破るまで。私のもう片方がある世界で、生きていて下さい」
朱音の身体に温かいものが流れる。
くちなしの花と、桜の花。
二つの花びらをまとい、露李が朱音に力を注いでいく。
互いの頬に涙が流れた。


