【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく

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 「え、秋雨さんたちまた行っちゃうんですか?」


蔵を出て夕食を食べた後に暖かい部屋で談笑しているとき、露李は驚いた声を上げた。

秋雨という存在は心強く、知識が豊富で頼りになる。

それに睡蓮や宵菊と十分に話せていないし、星月夜など会ってもいない。

穏やかに笑いながら、秋雨は露李の目を真っ直ぐに見つめた。


「俺も睡蓮たちも、扇莉のことが消化しきれていないものでな。朱音が曖昧にした鬼の存在も、各地を巡って集めたいのだ」


「申し訳ありませんわ…」


朱音が眉を下げて謝る。

それに首を振り、露李は朱音の目を見つめて彼女の手に触れた。


「仕方ないです。もう朱音さんに世界に干渉してもらう訳にはいかないですし。私をあの手この手で風花姫から遠ざけようとして下さったことが、私は嬉しいんですから」

 
「露李姫…貴女は本当に」


お優しいのですわね。


掠れた声はきっと露李にしか届いていない。


「露李姫」


朱音は呼びかけながら、露李の髪につけた髪飾りをコツンとつついた。

しゃらんと音が鳴る。

精巧なガラス細工のような本体には蝶結びにした薄絹がついていて、その先端に鈴がついている。


「これは、力を抑える髪飾りです。…時雨や花、扇莉が私に下さったものですわ」


「やはりそうか。何だ、分かっていたのか朱音。その意味を」


秋雨は驚いた風に髪飾りを見た。

その表情を見て朱音はからからと明るく笑う。


「私が神になることを心から恐れていたの、気づいていたのでしょう?初めて会ったあの日から」


「…ああ。言っておくが、花の提案だぞ」


過去を懐かしむ眼差しが優しい。

しかしどこか切なさを宿していた。


「…本当に、忘れてしまうのだな。花が、どんなやつだったか、どんな話し方だったのか…思い出せない」


朱音が最も恐れたこと。忘れ去られること。


「あれ……?でも、私のことは皆さん忘れていないですよ」


「それは、きっと“半分”だからだろうな」


半分。

自分の魂の片割れは、今どこにいるのだろう。


「…新しい世界です。世界が、新しく創られたのですわ。貴女の手によって」


想いを汲み取ったように朱音が答えた。

ぱっと顔を上げる。


「露李姫。それを差し上げるのは、私が最後に貴女に出来ることですわ」


「どういうことですか?」


「……神というものは、公平に世界を見なければならない。多数の幸福のために、少数を犠牲にしなくてはならないこともありますの」


朱音は神というものが存在しない世界を造るために、全てをまっさらにするために露李を創り、吸収の力を授けた。

そのこと自体はは朱音の個人的な思惑だ。

しかし多くの鬼の悲しみを取り除くために露李を犠牲にしようとしたことは、公平に見たと言えるかもしれない。

結局は朱音の罪悪感と、露李への情で計画は潰えたわけではあるが。


露李は神妙に朱音の目を見返した。