「お願いします。力がない、役立たずの方が嫌です」
「露李………分かった。秋雨くん、どれくらいの力が要る?」
「…途方もないだろうな。扇莉は陰と陽に分けたから成り立っていたが、今回はそうもいかない」
「じゃあどうするの?」
「俺と朱音の力を注ぐ」
水無月の顔が剣呑になった。
その顔に秋雨が戸惑い、首を傾げた。
「何で俺は入ってないわけ?」
「…これは、俺や朱音が原因だ」
「俺は露李のためなら何でもする」
秋雨は困った顔をしたが、もう水無月が決意を変えないことは分かっていた。
「待ってくれ。俺らに出来ることはねーのか?」
「…守護者は、露李姫の心を守る存在だ。何かあっては困る」
秋雨はそう言って振り返り、朱音と露李に向き直った。
「良いか?露李姫」
「バッチリです!!」
その返事とともに、朱音が鉄格子に手を触れた。
溶けるように牢がなくなる。
確かな意志がある彼女の力は、もう暴発することはない。
「あの、少しだけ待って下さい」
朱音が少し躊躇ってから、手を露李の方に差し伸べた。
竜胆の花びらが流れてきて、露李の怪我の部分に吸い込まれていった。
温かいものが身体を流れ、傷が癒えていく。
そして再度、朱音は自分が付けていた髪飾りを外し、そこに自分の力を注いだ。
美しい八重桜の髪飾りだった。
「できましたわ。…参りましょう」
「よし」
「露李、大丈夫だからね」
三人が姿を顕現させた。
その手で、露李の身体に触れる。
彼女の姿が、二色の光に包まれた。
「【かの者を永久に。流れよ流れ。千年の光をまといて。いざ守り抜かん、永久の華】」
歌うように詠まれる。
そして花びらが舞う。
竜胆、そして椿の花だ。
光の中で、露李はその楽園のような光景を見た。
温かい、と思った。
しかしすぐに意識が遠くなる。
そっと目を閉じた。
自分と、自分ではないもう一つの命を感じた。
力が抜けて倒れそうになったところを、水無月の腕が抱き止める。
しばらくして、光が消えた。
目を開ける。痛いという感触はなかった。
「……露李姫。何か、変わったことはないか」
疲弊した様子の秋雨が露李に問い、首を振ろうとして──固まった。
──何も感じない。何も感じないのだ。
「秋雨さんと、朱音さんから…気を、感じません」
二人が笑った。
「ああ。もういいんだ」
「良い、って……」
「俺と朱音は、鬼としての力を失った。それで良いんだ。人間のように全うな死を迎えられるだろう…我々は長く生き過ぎた」
絶句した露李の手を、水無月の手が包んだ。
「兄様は…?兄様はどうなるの?」
「分からない。…水無月、ひとまず武器を出せるか?」
秋雨に促され、水無月が手を翳す。
「出でよ、炎雷鬼」
何も現れない。
銀色の光が少し散っただけで、何かが造り出されることはなかった。
「そんな……」
「大丈夫だよ、露李。あれがなくとも俺は君を守れる」
少し力が弱まったとしても。
その言葉を飲み込んで、水無月は露李に笑いかけた。
「謝ったりしないでね、俺が選んだんだから」
先を越され、口を閉ざす。


