「こんにちは、朱音さま」
不気味に柔らかな声。
朱音は息を飲んで、どかりと目の前に座った男を見つめた。
「ずいぶん大人みたいなナリしてたけど、今は子供みたいだね?」
「私は……」
「ごめんね、俺あんたの声聞きたくないんだよね。必要以上には。耳が穢れる」
飄々と残酷なことを言ってのける水無月に、朱音は口を閉ざす。
「事情はある程度知ってるし、同情しないこともないけど。俺、露李に手ぇだした時点で無理なんだよね。愛だのなんだの言うけど、あんたのせいで露李は傷ついてる」
「ですから私は運命に逆らって欲しいがために…」
おどおどと弁解する朱音。
水無月の中で何かが切れた。
目にもとまらぬ早さで近寄り、ぐいと前髪を持って女の顔を上げさせる。
「水無月!」
睡蓮が非難の声をあげるが聞こえていない。
「全部自分の思った通りに動くと思ったか?ふざけるな」
俺はね、と恐ろしい笑顔で甘く囁く。
「あの子のためなら神だって殺せるよ。あの子は他のために自分を殺せるけど、俺は露李のためなら何だって──躊躇無く殺せる」
そして次の瞬間、彼から表情が削げ落ちた。
秋雨の溜め息を意に介せず水無月は身を翻し、作業に没頭した。


