声をあげまいと頑張りながら泣く露李の頭を撫でながら、文月は目を閉じた。
露李の泣き声を聞くのは辛い。
それでも、自分にこの声を聞かせてくれたことには不謹慎ながらも嬉しさを感じていた。
笑っていて欲しい。
心からの笑顔を見たい。
そんな風に思えるのは初めてのことだった。
いつも自分の前を行く幼馴染みの一人──翡翠の目を持つ男に、初めて譲れないと思った女性。
それが──風花姫だとは。
──不思議だな。
文月は目を開けて、露李の美しい髪が白い雪の中で風に吹かれているのを眺めた。
あんなにも憎んで、使えないか弱い女であれば殺してしまおうとまで思っていたのに、今はそんな思いを申し訳ないとさえ感じている。
彼女が強いからではない。
文月自身が、露李に惹かれていた。
大地家で、様々な風花姫について教育を受けてきた。
いわゆる“すりこみ”で、頭領を風花姫に縛りつけるための教育だ。
その異質さに気がついていた。
けれども、そこから逃れられないことにも気がついていた。
そうして、幼馴染み達を守れるのは自分だけだと思った。
使えない女のために命を賭けて戦う必要はない。
女が自分達を縛る、五色の護符を使う前に殺してしまえば、自由になれると思っていた。
だが今は、この娘から離れたくないと思っている。
強くて、それなのに儚い彼女を守りたいと思っている。
恋。
この感情をきっと、そう呼ぶのだろう。
がさりと前方の茂みが音をたてた。
露李には聞こえていないようで、文月は素早く音の方向に目をやった。
驚いた顔の結が、そこにいた。
動揺しているとすぐに分かるほどに目を泳がせ、身の置き場に困っていた。


